名義は一度決めたら終わりではない
会社を始めた当初は、社長個人の資産を会社に使わせる形でも
特に問題を感じないかもしれません。
自宅の一部を事務所として使ったり、
個人で購入した土地に会社の建物を建てたりするケースもあります。
一方、会社の利益が増えてくると、不動産や車、金融資産などを
会社名義で購入する機会も増えてきます。
問題は、その持ち方が10年後、20年後にも適しているとは限らないことです。
会社の規模が変わり、後継者が決まり、社長自身の引退が近づけば、
資産に求める役割も変わります。
そのため、会社名義と個人名義のどちらが有利かは一度決めて終わりではなく、
資産を使う目的が変わったときに持ち方を見直す必要があります。
特に確認したいのは、資産を新しく買うとき、後継者が決まったとき、
社長の退任が近づいたとき、事業と関係のない資産が会社に増えたとき、
会社を売却・廃業する可能性が出てきたときです。
資産を買う前が最も見直しやすい
会社名義と個人名義を検討するなら、最も判断しやすいのは購入前です。
購入した後に名義を変えようとすると、
単に所有者の名前を書き換えるだけでは済まないからです。
例えば、社長個人が持っている土地を会社へ移す場合、
基本的には個人から会社へ土地を売る取引になります。
会社は購入資金を準備しなければならず、
社長側では売却による税負担が生じます。
不動産であれば、登記や取得に伴う費用も掛かります。
反対に、会社が持つ資産を社長個人へ移す場合も、
会社の財産を自由に社長へ渡せるわけではありません。
そのため、購入時に誰が持つべき資産なのかを整理しておく方が、後から修正するより選択肢を広く持てます。
判断するときは、税金だけではなく、その資産を誰が使い、
誰が代金を負担し、将来誰へ引き継ぐ予定なのかまで検討する必要があります。
事業専用なら会社名義を検討
資産の使い道が会社の事業に限定されている場合は、
会社で所有する方が管理しやすいケースが多いです。
例えば、会社専用の機械や工場設備。
社長個人が機械を購入し、それを自分の会社へ貸す形にする必要性は
あまりありません。
購入費用、維持費、修理費、売却代金などが
すべて会社の事業と結び付いているのであれば、
会社側で管理した方がお金の流れも分かりやすくなります。
不動産でも同様です。
今後も会社が長期間使い続ける工場や倉庫であり、
社長個人が所有する特別な理由がないのであれば、会社名義がよいでしょう。
ただし、会社が不動産を所有すると、その不動産も会社の財産になります。
将来の自社株の価値や、会社を売却するときの条件にも影響するため、
事業専用だから必ず会社名義にすればよいというわけではありません。
会社が使う資産だから会社名義にするのではなく、
会社と一緒に将来まで引き継ぐ資産なのかを判断することが重要です。
後継者が決まったら資産を整理
事業承継の方向性が決まったときは、資産の持ち方を見直す大きなタイミングです。
例えば、長男が会社を継ぐ一方、長女は会社には関わらないとします。
この状態で、会社に欠かせない工場の土地を社長個人が持っているのであれば、
将来誰へ引き継ぐかを決める必要があります。
一方、会社名義で賃貸マンションを所有しているものの、
その物件が本業とは何の関係もないケースもあります。
この場合は、後継者が会社と一緒に賃貸不動産まで引き継ぐ必要があるのか
を検討します。
つまり、後継者が決まった段階では、
個人名義の財産だけの整理では足りません。
会社の財産も含めて、後継者に何を引き継がせるのかという視点で
分類する必要があります。
本業に必要なもの、本業とは関係ないもの、社長個人の生活に必要なものを
分けることで、現在の名義が今後も適切なのかを判断しやすくなります。
引退が近づいたら個人の生活も含めて検討
現役社長の間は、会社と個人の経済的な結び付きが強くなります。
しかし、経営から退けば状況は変わります。
例えば、社長個人が所有する店舗を会社へ貸し、
毎月50万円の地代を受け取っているとします。
年間では600万円です。
この収入を退職後の生活費として使う予定なら、
店舗を個人で持ち続ける意味があります。
一方、会社から退職金を受け取り、十分な老後資金を確保できるのであれば、
結論は変わってきます。
会社が今後も何十年とその店舗を使い続けるのであれば、
会社所有に変える選択肢も比較できます。
重要なのは、会社の視点だけで判断しないことです。
社長が引退した後に、毎年どの程度の生活費が必要なのか。
個人としてどの資産から収入を得るのか。
会社から受け取る収入がなくなった後も資金に余裕があるのか。
こうした点を整理すると、個人名義で残す必要がある資産が明確になります。
会社に本業と関係ない資産が増えたとき
会社が利益を出し続けると、本業以外の資産が増えていく可能性が高いです。
会社名義の賃貸マンション、投資用の土地、金融商品などです。
これらが会社の資産形成として明確な目的を持っているのであれば、
保有を続ける選択肢があります。
一方、購入した理由が曖昧なまま何年も持ち続けているのであれば、
一度整理した方がよいでしょう。
本業とは関係のない資産が増えると、会社の財産構成が複雑になります。
後継者は本業だけでなく、それらの資産管理まで引き継がなければなりません。
また、会社を売却する場合には、
本業と関係のない資産をどう扱うかという問題も生じます。
そのため、決算書の資産欄に大きな金額が載っているから安心と判断するのではなく、その資産が今後の会社に本当に必要なのかを検討する必要があります。
判断するには数字を使う
例えば、社長が62歳で、3年後に長男へ会社を引き継ぐ予定だとします。
会社は本業で使用する工場を持っておらず、
社長個人が所有する工場用地を借りています。
土地の価値は6,000万円で、会社から社長へ年間360万円の地代を払っています。
一方、会社は本業とは関係のない賃貸不動産を4,000万円分所有しており、
年間の家賃収入は240万円です。
ここで資産の役割を整理します。
工場用地は会社の事業に欠かせない財産ですが、社長個人の資産です。
賃貸不動産は会社名義ですが、本業には必要ありません。
現在の状況であれば、このままでも問題ありません。
しかし、3年後に社長が退任するのであれば、結論は変わります。
工場用地から得る年間360万円を退職後の生活費として必要としているなら、
個人所有を続ける理由があります。
反対に、退職金などで生活資金を十分確保でき、
会社が今後も同じ場所で工場を続けるのであれば、
会社への移転を検討する余地が生まれます。
一方、賃貸不動産については、
長男が会社と一緒に引き継ぐ必要があるでしょうか。
本業へ必要な資産なのか、単純な投資なのかによって結論は変わります。
このケースで大切なのは、
会社名義と個人名義を入れ替えればよいということではありません。
工場用地は会社経営と社長の生活、
賃貸不動産は会社の将来戦略という別々の基準で判断する必要があります。
同じ不動産でも、役割が違えば適した所有者も変わります。
名義変更はあくまで手段
資産の持ち方を見直すというと、会社から個人へ移す、
個人から会社へ移すという話になりやすいですが、
必ず名義変更が必要になるわけではありません。
現在の形を維持する方が合理的なケースもあります。
例えば、社長個人が本社土地を持ち、会社から適正な条件で賃料を受け取っており、
将来その土地を後継者へ引き継ぐ計画もできているのであれば、
急いで会社名義へ変える必要はありません。
重要なのは、現在の所有関係に理由があることです。
反対に、誰も理由を説明できず、
創業時から何となく同じ名義になっているのであれば、見直す余地があります。
資産の持ち方を検討する目的は、名義を変更することではありません。
会社と個人のどちらが持つ方が、今後の経営、相続、生活資金を
整理しやすいかを判断することです。
M&Aを考え始めたら整理
会社を第三者へ売却する可能性が出てきたときも、
資産の持ち方を確認するタイミングです。
買い手が欲しいのは、必ずしも会社が所有するすべての資産ではありません。
本業とは関係のない賃貸不動産や高額な投資資産まで会社に含まれていると、
売却条件を複雑にする要因になります。
反対に、会社の事業に欠かせない工場の土地を社長個人が所有している場合は、
会社を買った後もその土地を使えるのかが買い手にとって重要です。
会社は売却するものの土地は社長が持ち続けるのか。
土地も一緒に買い取ってもらうのか。
売却後は買い手へ土地を貸すのか。
こうした条件によって、会社を売った後の社長の資産構成や収入も変わります。
M&Aを具体的に進めてから資産の整理を始めるのではなく、
売却を選択肢として考え始めた段階で所有関係を確認しておく方が
対応しやすくなります。
廃業する可能性が出たときも確認
後継者がおらず、将来的に会社をたたむ可能性がある場合も同様です。
会社名義の資産は、会社を廃業したからといって
自動的に社長個人のものになるわけではありません。
不動産や車、金融資産などが会社に残っていれば、
会社を整理する過程で処分や移転を検討する必要があります。
特に、会社名義の不動産を社長個人が老後も使いたいと考えている場合は、
廃業直前になって初めて考えるのでは遅いです。
どうやって個人へ移すのか。
会社に売却代金が入った後、そのお金をどう整理するのか。
個人側と会社側でどのような負担が生じるのか。
こうした問題を事前に整理しておけば、会社を閉じる段階で慌てずに済みます。
見直すべきタイミングは6つ
会社名義と個人名義を毎年すべて検討する必要はありません。
ただし、大きな変化が起きたときには確認した方がよいでしょう。
具体的には、次の6つです。
1.新しい不動産などを購入するとき
2.後継者が決まったとき
3.社長の退任が具体的になったとき
4.本業と関係のない会社資産が増えたとき
5.M&Aを選択肢として考え始めたとき
6.廃業の可能性が出てきたとき
この6つの場面では、
現在の名義が今後の目的と合わなくなっている可能性があります。
そのときは、資産ごとに誰が使用するのか、誰が収入を得るのか、
誰へ引き継ぐのか、会社に必要なのかという順番で整理します。
最初から税金だけで会社名義と個人名義を比較するのではなく、
資産の役割を決めた後に税負担を比較する方が判断を誤りにくくなります。
まとめ
会社名義と個人名義のどちらが有利かに、
すべての会社へ当てはまる答えはありません。
重要なのは、現在の名義が、その資産の今後の役割と一致しているかです。
新しい資産を購入するときは、誰が使い、誰が代金を負担し、
将来誰へ引き継ぐのかを決めてから名義を選びます。
後継者が決まったら、本業に必要な資産と関係のない資産を整理します。
社長の引退が近づいたら、会社だけでなく退任後の生活資金も含めて判断します。
M&Aや廃業を考え始めた場合は、
会社に残す資産と社長個人に必要な資産を改めて整理する必要があります。
そして、名義変更は手段であって目的ではないことを忘れないでください。
資産の使い道が変わったときこそ、会社名義と個人名義を見直すタイミングです。
その資産が今後も会社と一緒に必要なのか、それとも社長個人や家族に残したいのか。
この判断を先に行うことで、税金だけに振り回されず、
会社と個人の両方に合った資産の持ち方を選びやすくなります。

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