電話が来たからといって、すぐに税務調査とは限らない
相続税の申告を終えると、
「これで相続の手続きも一段落した。」
と安心する方も多いでしょう。
ところが、申告からしばらく経った後に
税務署から電話や書類が来ることがあります。
突然、
「相続税の申告について確認したいことがあります。」
と言われれば、
「申告を間違えたのだろうか。」
「税務調査になるのだろうか。」
と不安になるかもしれません。
しかし、税務署から連絡が来たからといって、
必ず税務調査が始まるわけではありません。
申告書の数字や記載内容について確認したいだけの場合もあれば、
計算間違いや財産の記載漏れがないか、
自分でもう一度確認してほしいという連絡もあります。
一方、申告内容を詳しく確認する必要があると判断されれば、
自宅などで資料を確認する税務調査へ進むこともあります。
大切なのは、電話が来た時点で慌てて説明したり、
言われるまま申告を直したりすることではありません。
まず、税務署が何について、どのような形で
確認しようとしているのかを把握することです。
今回は、相続税の申告後に税務署から連絡が来る代表的な場面と、
そのときに確認したいことについて解説します。
税務署からの連絡には大きく分けて二つある
相続税の申告後に税務署から連絡が来た場合、まず確認したいのが、
「これは税務調査なのか、それとも申告内容についての確認なのか。」
という点です。
国税庁では、税務調査とは別に、文書や電話、税務署への来署依頼などによって
申告内容を確認し、計算間違いや財産の記載漏れなどがあれば
自主的な見直しを求めることがあります。
一般の相続人からすると、
税務署から電話や書類で「ここをもう一度確認してください」
と言われる段階と考えれば十分です。
税務署から連絡を受けることと、
本格的な税務調査を受けることは同じではありません。
申告した数字と税務署が持つ情報に違いがある
では、なぜ申告後に確認の連絡が来るのでしょうか。
一つの理由は、
申告書に書かれている内容と、税務署が把握している情報との間に
確認したい点があるからです。
税務署は、提出された相続税の申告書だけを見ているわけではありません。
国税庁は、税金に関するさまざまな資料や過去の申告情報などを集め、
申告内容の確認や税務調査を行う対象の検討に利用しています。
例えば、亡くなった方が多額の金融資産を持っていたと考えられるのに、
相続税の申告書には少額の預金しか記載されていない場合があります。
だからといって、直ちに申告漏れと判断されるわけではありません。
生前に生活費や不動産購入などへ使った可能性もあります。
問題になるのは、その減少理由を確認しても説明できない場合です。
相続税の申告では、「亡くなった日の預金残高」だけを集めればよいわけではありません。
亡くなるまでに大きなお金の移動があった場合、
そのお金がどこへ行ったのかまで確認しておくことが、
申告後の説明にもつながります。
家族名義の預金が確認されることがある
相続税の申告で特に慎重に確認したいのが、家族名義になっている預金です。
例えば、父親が自分のお金を子ども名義の口座へ長年積み立てていたとします。
通帳には子どもの名前が書かれています。
しかし、父親が通帳や印鑑を管理し、
子ども自身はその口座の存在すら知らなかったとしたら。
「名前が子どもだから、子どもの財産。」
と簡単には判断できません。
誰がお金を出したのか。
誰が通帳を管理していたのか。
誰がそのお金を自由に使えたのか。
こうした事実を確認したうえで、
亡くなった方の財産なのか、
家族本人の財産なのかを判断する必要があります。
そのため、申告書に記載していない家族名義の預金について、
その資金が亡くなった方から出ていることが分かれば、確認を受ける可能性があります。
名義だけで判断せず、お金がどのように増えたのかを確認することが重要です。
亡くなる前に大きなお金が動いている場合
申告前には、亡くなった日の財産だけでなく、
その前のお金の動きも確認しておきたいところです。
例えば、亡くなる数年前に預金口座から1,000万円が引き出されていたとします。
その1,000万円を自宅のリフォームや入院費などに使っていれば、
領収書や振込記録などから説明できるでしょう。
一方、引き出した後のお金を家族が預かっていた場合や、
子どもの口座へ移していた場合には、
そのお金が相続財産や生前の贈与に関係していないかを確認する必要があります。
特に高齢になってからは、家族が本人に代わって銀行手続きを行うことも増えます。
その結果、
「母の口座から長男の口座へ移したが、母の生活費として管理していただけなのか。」
「長男へ贈ったお金なのか。」
「長男が自分のために使ったのか。」
という区別が曖昧になることがあります。
相続税では、単に「口座からお金がなくなっている」という事実だけでは判断できません。
だからこそ、大きな資金移動があったときに、
何のために動かしたお金なのかを記録しておくことが大切になります。
不動産の金額について確認されることもある
相続財産に土地や建物が含まれている場合、預金とは違った注意が必要です。
預金であれば、基本的には亡くなった日の残高を確認すれば金額が分かります。
一方、土地については、所在地や形状、利用状況などによって
相続税を計算するときの金額が変わります。
同じ地域にある土地でも、道路との接し方や土地の形などによって
金額が変わる場合があります。
また、一定の条件を満たす自宅や事業に使っていた土地について、
相続税を計算するときの金額を大きく下げられる仕組みを利用しているケースもあります。
この場合には、
「本当に条件を満たしていたのか。」
「申告した面積は正しいのか。」
「実際にどのように使われていた土地なのか。」
といった点が重要になります。
土地について確認の連絡が来たからといって、
申告額が必ず間違っているとは限りません。
申告した金額をどのように計算したのか、
根拠となる資料を残しておくことで説明しやすくなります。
社長の相続では自社株と会社とのお金のやり取りも確認したい
会社経営者の相続では、
個人の通帳や不動産だけを確認しても財産の全体像が分かりません。
特に見落としやすいのが、自社株と会社との間のお金のやり取りです。
社長が所有している会社の株式は、相続財産になります。
証券取引所で売買されていない会社であっても、
会社の利益や保有している財産などを基に株式の価値を計算する必要があります。
また、社長が会社へ個人のお金を貸している場合、
その返してもらう権利も社長個人の財産です。
例えば、会社の決算書に、
「社長から2,000万円借りている。」
という状態が残っていれば、
社長側から見ると会社へ2,000万円を請求できる財産を持っていることになります。
個人の預金や不動産だけを申告し、この2,000万円を記載していなければ、
財産の漏れにつながります。
社長の相続税申告では、亡くなった方個人の資料だけでなく、
会社の決算書や株主の状況まで確認する必要があります。
海外の口座や資産も「日本から見えないから大丈夫」ではない
海外に銀行口座や証券口座、不動産などを持っている場合も注意が必要です。
現在は、国と国との間で金融口座の情報を交換する仕組みなどが整備されています。
国税庁も、こうした情報を利用して海外の資産や取引の把握に取り組んでいます。
海外の財産が必ず日本の相続税の対象になるわけではなく、
亡くなった方や財産を受け取る人の居住状況などによって扱いは変わります。
しかし、
「海外の口座だから税務署には分からない。」
という前提で申告から外すことは適切ではありません。
海外口座を持っていた、海外で投資をしていた、以前海外に住んでいた
といった事情がある場合には、申告前に確認しておくことが重要です。
連絡が来たら、まず申告書と資料を見直す
税務署から連絡が来ると、その場ですべて答えなければならないと思うかもしれません。
しかし、何年も前のお金の動きや土地の金額について、
電話口ですぐ正確に答えられるとは限りません。
まず確認したいのは、
・誰からの連絡なのか
・どの相続についての連絡なのか
・何を確認したいのか
・税務調査なのか、それ以外の確認なのか
という点です。
そのうえで、提出した相続税申告書と、
申告時に使用した預金資料、不動産資料、自社株の計算資料などを確認します。
税理士へ相続税申告を依頼していた場合は、
自分だけで回答を進めず、申告を担当した税理士へ連絡した方が状況を把握しやすくなります。
税務署から計算間違いや記載漏れの可能性を指摘された場合でも、
まず事実関係と申告内容を照らし合わせることが重要です。
「税務署から言われたから間違い」と決めつけるのでも、
「絶対に間違っていない」と反発するのでもなく、
申告時の資料から確認することが大切です。
税務調査の場合は事前に連絡がある
申告内容について詳しい税務調査を行う場合には、原則として事前に連絡があります。
税務調査の前には原則として事前通知が行われます。
通常は電話で行われ、調査を始める日時や場所、調査の目的などが伝えられます。
一定の場合には事前通知を行わずに調査することもありますが、
一般的には突然何の説明もなく自宅へ来るという形ではありません。
税理士へ申告を依頼しており、必要な手続きをしている場合には、
税理士へ調査の連絡が行われるケースもあります。
税務調査になった場合には、預金通帳や不動産関係の資料などを確認しながら、
申告した財産に漏れがないかなどを確認していくことになります。
ただし、税務調査が入ったこと自体が、
「財産を隠していると判断された。」
という意味ではありません。
調査を受けることと、不正が確定していることは別の話です。
申告後に間違いへ気付いたら、連絡を待つ必要はない
相続税の申告書を提出した後に、
「別の銀行口座が見つかった。」
「会社へ貸していたお金を入れ忘れていた。」
「生命保険金の一部が計算に入っていなかった。」
と気付くこともあります。
その場合、税務署から連絡が来るまで待つ必要はありません。
追加で納める税金がある場合には、自分から申告内容を直すことができます。
反対に、財産の金額を高く計算していたなどの理由で税金を払い過ぎている場合には、
一定の期間内であれば税額を減らすための手続きを行える場合があります。
税務署から連絡が来る前に間違いへ気付いたのであれば、
「そのうち分かるかもしれないから放置する。」
のではなく、申告内容を確認することが重要です。
申告を税理士へ依頼している場合には、発見した資料をそのまま税理士へ伝え、
修正が必要かを判断してもらう方が安全です。
一番大切なのは「申告した理由を説明できる状態」にしておくこと
相続税申告では、
「税務署から連絡が来ない申告書を作ること。」
を目的にする必要はありません。
どれだけ丁寧に申告しても、税務署から確認を受ける可能性はあります。
大切なのは、問い合わせを受けたときに、
「なぜこの預金を相続財産に含めたのか。」
「なぜこの家族名義の口座を含めなかったのか。」
「この土地の金額をどのように計算したのか。」
「自社株の価値をどの資料から計算したのか。」
という説明ができることです。
相続税の申告が終わったからといって、
申告に使った資料をすぐ処分するべきではありません。
財産一覧、預金残高や取引履歴、不動産の資料、自社株を計算した資料、
生命保険に関する書類などを申告書と一緒に整理しておけば、
後から確認を受けた場合にも対応しやすくなります。
申告書の数字だけを残すのではなく、その数字になった理由まで残しておくことが、
申告後の安心につながります。
まとめ
相続税を申告した後に税務署から連絡が来ても、すぐに税務調査が始まるとは限りません。
税務署では、文書や電話などによって申告内容を確認し、
計算間違いや財産の記載漏れがないか、自主的な見直しを求めることもあります。
確認される可能性があるのは、預金だけではありません。
家族名義になっている預金、
亡くなる前の大きなお金の移動、
不動産の金額、自社株、
会社へ貸しているお金、
海外にある財産。
こうした財産について、
申告内容と確認できる資料との間に違いがないかを見直すことが重要です。
そして、税務署から連絡があったときは、慌てて回答するのではなく、
まず何についての連絡なのかを確認します。
その後、申告書と当時の資料を見直し、
必要であれば申告を担当した税理士と内容を整理します。
相続税申告で重要なのは、ただ数字を申告書へ記入することではありません。
「なぜこの金額で申告したのか」を後から説明できる状態にしておくことです。
申告が終わった後も資料を整理して残しておけば、
税務署から確認を受けたときにも、落ち着いて対応しやすくなります。

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