「赤字だから株価も低い」とは限らない
会社が赤字になると、
「今年は利益が出ていないから、自社株の価値もかなり下がっているだろう」
と考える社長は少なくありません。
たしかに、会社の利益は自社株の価値に影響します。
しかし、中小企業の自社株は、その年の利益だけで決まるものではありません。
会社がこれまで積み上げてきた預金や不動産などの財産、
借入金の残高、過去の利益の状況なども関係します。
そのため、今年は赤字でも、会社の中に多くの財産が残っていれば、
自社株に高い価値が付くことがあります。
特に長年続いてきた会社では、直近の決算だけで判断すると、
自社株の価値を大きく見誤る可能性があります。
相続や事業承継を考えるときに重要なのは、
「今年は黒字か赤字か」ではなく、
会社全体として今どれくらいの価値を持っているのかを確認することです。
今期の赤字と、積み上げた財産は別物
例えば、今期500万円の赤字になった会社の場合。
赤字という数字だけを見ると、
会社の状態がかなり悪くなったように感じるかもしれません。
しかし、その会社が過去20年間にわたって利益を出し続け、
現在8,000万円の預金を持っていたとしたら状況は変わります。
今年500万円の赤字が出たとしても、
過去に積み上げた8,000万円が一度になくなるわけではありません。
さらに、会社が土地や建物なども持っていれば、
それらも会社の財産として残っています。
つまり、今年の赤字は「今年一年間の成績」であり、
会社が現在持っている財産とは別に考える必要があります。
会社員の年収が前年より下がったとしても、
それまで貯めた預金や持ち家が突然なくなるわけではないのと似ています。
会社も同じで、今期の利益だけでは会社全体の価値は分かりません。
だからこそ、赤字だから自社株も安いと単純には判断できないのです。
利益を積み上げた会社は株価が高くなりがち
会社が利益を出しても、そのすべてを社長や株主へ渡すわけではありません。
税金を払い、設備投資や借入金の返済などに使った後、
残ったお金の一部は会社の中に蓄積されていきます。
例えば、毎年800万円ずつ会社にお金が残る状態が10年間続けば、
単純計算では8,000万円です。
実際には設備を買ったり、借入金を返したりするため、
そのまま預金として8,000万円が残るとは限りません。
それでも、長年利益を出してきた会社ほど、
預金や不動産などの財産が増えている傾向にあります。
この蓄積が自社株の価値に影響します。
そのため、今年だけ赤字になったとしても、
それまで会社に積み上げてきた財産が多ければ、
株価は大幅に下がらない可能性があります。
特に創業から数十年経っている会社では、直近の利益よりも、
過去に積み上げた会社の財産が大きな意味を持ちます。
昔買った土地が自社株の価値を押し上げるかも
自社株の価値が想像以上に高くなる原因として、
会社が昔から持っている不動産も見逃せません。
例えば、会社が30年前に3,000万円で土地を購入したとします。
会社の決算書を見ると、
その土地は購入したときに近い金額で載っています。
しかし、現在その土地が1億円程度の価値になっていれば、
会社が実際に持っている財産の価値は、決算書を眺めるだけでは分かりません。
特に本社、工場、倉庫、賃貸用の土地や建物などを長く所有している会社は、
こうした差が生じることがあります。
たとえ今期が赤字でも、会社が価値の高い土地を持っていれば、
自社株にはその影響が出ます。
そのため、「赤字決算だから自社株も安いだろう」と考える前に、
会社がどのような不動産を持っているのかも確認する必要があります。
現金が多い会社も赤字だけで判断できない
会社に多額の預金が残っている場合は、赤字になったからといって、
自社株の価値が大きく下がったとは限りません。
例えば、今期は1,000万円の赤字だったものの、
会社には2億円の預金があり、借入金は2,000万円だったとします。
この会社では、1年間で1,000万円の損失が出ても、
それまでに蓄積した財産の大部分は残っています。
一方、同じ1,000万円の赤字でも、預金が2,000万円しかなく、
借入金が1億円ある会社では状況がまったく違います。
つまり、赤字額が同じでも、
会社がその時点で持っている財産と借入金によって、自社株への影響は変わります。
ここで見るべきなのは、赤字になったという結果ではなく、
赤字になった後に会社にどれだけの財産が残っているかです。
特に、一時的な赤字が出た年は、損失額だけを見て自社株が安くなったと判断せず、
前年と比べて預金やその他の財産がどれだけ減ったのかまで確認する必要があります。
赤字1,000万円という数字よりも、
赤字後の会社に何が残っているのかを見る方が、
自社株の現在の状態を判断する材料になります。
借入金が多ければ会社の見え方は変わる
一方で、会社に預金や不動産が多いからといって、
必ず自社株の価値が高くなるわけではありません。
会社がどのくらい借金を抱えているかも重要だからです。
例えば、会社に1億円の預金があったとしても、
銀行から1億円を借りている会社と、
借入金がほとんどない会社では状況が違います。
不動産についても同じで、1億円の建物を所有していても、
その購入のために多額の借入金が残っているのであれば、
財産だけを見て会社の価値を判断することはできません。
つまり、自社株を見るときには、会社が持っているものだけでなく、
会社が返さなければならないものも一緒に確認する必要があります。
この点からも、
赤字か黒字かだけで自社株の価値を判断するのは難しいことが分かります。
一時的な赤字なのか、会社自体が弱っているのか
同じ赤字でも、その意味は会社によって大きく異なります。
例えば、普段は毎年2,000万円ほど利益を出している会社が、
大規模な設備修理を行ったことで今年だけ500万円の赤字になったとします。
この場合、来年には再び利益を出す可能性があります。
会社の預金や不動産も十分に残っていれば、
会社そのものの力が大きく落ちたとは言えません。
一方で、売上が毎年減少し、
5年間連続で赤字が続いている会社では状況が違います。
預金を取り崩しながら給料や仕入代金を払い、
借入金も増えているかもしれません。
同じ500万円の赤字でも、一時的な赤字と、
会社の財産そのものが減り続けている赤字では意味がまったく異なります。
自社株の価値を考えるときは、
「今年赤字だった」という結果だけではなく、なぜ赤字になったのか、
会社の財産がここ数年でどう変化しているのかまで見ることが大切です。
赤字の年だから株を渡せば得とは限らない
事業承継を考えている社長の場合、
会社が赤字になった年に後継者へ株を渡すことを考えることがあります。
「今年は赤字だから、株価も下がっているはずだ。
今のうちに渡した方がよいのではないか」と考えるのは自然です。
しかし、赤字になったという理由だけで
株を移すタイミングを決めるのは早いでしょう。
会社に多額の預金や不動産が残っていれば、
実際に自社株の価値を確認してみると、
思ったほど下がっていないことがあります。
反対に、赤字に加えて会社の財産も大きく減っているのであれば、
以前より株価が下がっている可能性もあります。
重要なのは、赤字という数字を見て予想するのではなく、
現在の自社株の価値を実際に確認することです。
さらに、株を渡す時期は税金だけで決めるものでもありません。
後継者が本当に会社を継ぐ意思を持っているのか、
経営を任せられる状態なのか、
先代社長が今後どこまで経営に関わるのかも一緒に考える必要があります。
社長が自社株の価値を知らないことの方が問題
自社株について最も避けたいのは、
社長が亡くなった後になって初めて株の価値を知ることです。
例えば、社長個人の財産が預金3,000万円と自宅4,000万円だったとします。
家族も社長本人も、「財産は7,000万円くらいだろう」と考えていたとします。
ところが、相続が始まって自社株の価値を確認したところ、1億円だったとします。
そうなると、相続で確認すべき財産は一気に1億7,000万円規模になります。
さらに、自社株は預金のように、そのまま相続税の支払いへ使うことができません。
会社を継ぐ後継者であれば、自社株を売って現金を作ることも簡単ではないでしょう。
財産としての価値は高いのに、納税に使える現金が少ないという状態が生まれます。
この問題は、社長が生前に自社株の価値を確認していれば、ある程度準備できます。
後継者へどのくらい現金も残すのか、株をいつ渡すのか、
納税資金をどう準備するのかを考える時間があるからです。
赤字になったときは株価を「予想」ではなく「確認」
赤字になった年は、自社株について考えるよいきっかけになります。
ただし、確認すべきなのは赤字額だけではありません。
過去数年間の利益がどう推移しているのか、
会社の預金はいくら残っているのか、
不動産やその他の財産をどのくらい持っているのか、
借入金はいくら残っているのかまで確認します。
こうした情報を見ることで、会社の財産が増えているのか、
減っているのかが分かります。
そのうえで自社株の価値を確認すれば、
相続や事業承継についてどの程度準備する必要があるのかも判断しやすくなります。
赤字という一つの数字だけで結論を出さず、
会社全体を見直すきっかけとして使うことが重要です。
自社株は一度確認して終わりではない
自社株の価値は毎年同じではありません。
会社が利益を出し続ければ、預金などの財産が増える可能性があります。
反対に、赤字が続けば財産が減っていくこともあります。
会社が土地を購入したり、所有していた不動産を売却したりすれば、
会社の財産構成も変わります。
借入金を大きく返済した場合にも、会社の状態は変化します。
そのため、事業承継や相続を考えている社長は、
一度だけ自社株の価値を確認して終わりにするのではなく、
会社に大きな変化があったときに見直すことが大切です。
特に、利益が大きく増えたとき、不動産を売買したとき、
大きな借入金を返済したとき、後継者が決まったときなどは、
自社株を改めて確認するタイミングになります。
まとめ
赤字会社だからといって、自社株の価値まで低いとは限りません。
自社株には、その年の利益だけでなく、
これまで会社に積み上げてきた預金や不動産などの財産も影響します。
長年利益を出してきた会社であれば、
今期が赤字でも多くの財産が残っていることがあります。
昔から所有している土地が大きく値上がりしていることもあります。
一方で、借入金が多かったり、
赤字が長年続いて会社の財産が減っていたりすれば、状況は変わります。
そのため、赤字か黒字かという一つの数字だけで
自社株の価値を判断するべきではありません。
特に社長の相続では、個人の預金や不動産だけを見ていると、
財産全体を大きく見誤る可能性があります。
自社株の価値が高ければ、想定以上の相続税が発生するだけでなく、
会社を継ぐ後継者が納税資金に困ることもあります。
赤字になったときに考えるべきなのは、
「株が安くなっただろう」と予想することではありません。
会社に今どのくらいの財産が残っていて、
自分が持っている自社株にどれくらいの価値があるのかを確認することです。
現在の価値を把握できれば、後継者へ株を渡す時期や相続への備えも、
より具体的に考えられるようになります。

コメント