役員報酬は「上げれば上げるほど手取りが増える」と思われがちですが、
そう単純ではありません。
むしろ一定のラインを超えると、手取りが伸びないどころか、
トータルで損をするケースも珍しくありません。
今回は、税理士の実務感覚ベースで「役員報酬を上げすぎると損するライン」を、
税率・社会保険・会社全体の視点から整理します。
※短期的な節税テクニックではなく、長期的に資産を残す前提で解説していきます。
■ なぜ役員報酬は「上げすぎると損」になるのか
結論から言うと、理由は大きく3つあります。
① 累進課税により税率が急激に上がる
所得税は累進課税です。
つまり、所得が増えるほど税率が上がり、
- 約900万円超 → 33%
- 約1,800万円超 → 40%
- 約4,000万円超 → 45%
ここに住民税(約10%)が加わるため、
一定ラインを超えると税負担は50%前後になります。
② 社会保険料が重くのしかかる
役員報酬は社会保険の対象です。
社会保険の負担は、会社負担+個人負担で約30%
つまり報酬を増やすと、
- 税金
- 社会保険
の両方が増える構造です。
特に見落とされがちなのは、会社負担分も含めたコストです。
③ 法人とのトータルで不利になる
役員報酬は法人の損金になりますが、
- 法人税率:約23%
- 個人税率:最大55%
この差を考えると、
利益を個人に寄せすぎるとトータルで不利になるケースがあります。
■ 「損するライン」はどこか?
「ここからアウト」という絶対的なラインはないですが、
実務上の目安はあります。
① 年収800万〜1,000万円ゾーン
- 税率:20%台
- 社会保険:標準的
最もバランスが良いゾーンで、多くの中小企業社長がこの近辺に収まります。
② 年収1,000万〜1,800万円ゾーン
- 税率:30%台へ上昇
- 社会保険:上限に近づく
このあたりから「上げすぎ注意」で、増やした分の手取り効率が落ち始めます。
③ 年収1,800万円超
- 税率:40%超
- 住民税含めると約50%
このゾーンに入ると、追加で100万円増やしても、手取りは50万円前後
という状態になります。
④ 年収3,000万円超
- 税率45%+住民税
- 社会保険は頭打ちだが影響は大
この水準では、効率が悪く、報酬を増やす合理性はかなり低くなります。
■ よくある失敗パターン
① 節税目的で報酬を上げすぎる
→ 個人の税率が上がり逆効果
② 「会社に利益を残したくない」という発想
→ 無理に報酬で吐き出してしまう
③ 社会保険を軽視する
→ 実は税金以上に影響が大きい
■ 実務的な最適ラインの考え方
役員報酬は「最大化」ではなく、
最適化するものです。
考え方としては以下の通りです。
ステップ①
個人の税率が跳ね上がらない水準に抑える
目安:1,000万〜1,500万円
ステップ②
社会保険の影響を考慮
報酬を増やすと会社負担も増える点に注意
ステップ③
残りは法人に残す
内部留保・投資余力を確保し、会社の価値向上へつなげる
ステップ④
必要に応じて配当・退職金で調整
一つに偏らない設計が重要
■ 「手取り最大化」と「会社経営」は別物
役員報酬を上げると、短期的な手取りは増える一方で、
- 会社の利益が減る
- 財務体質が弱くなる
- 金融機関評価が下がる
結果として、
長期的な資産形成にはマイナスになることもあります。
■ 過度な節税思考はむしろ危険
実務上感じるのは、
「税金を払いたくない」という気持ちが強すぎると、
- 不自然な報酬設定
- 無理なスキーム
- 税務リスク増大
につながりやすいという点です。
本来は、
- 税金をコントロールしながら
- キャッシュを残し
- 会社を強くする
という視点が重要です。
■ まとめ
役員報酬は多くの社長にとって最大の関心事ですが、
・上げれば得ではない
・一定ラインを超えると効率が落ちる
・法人とのバランスが最重要
というのが実務的な結論です。
目安としては、
・年収1,000万〜1,800万円が分岐ゾーン
・1,800万円超は慎重に設計
・3,000万円超は再検討レベル
短期的な節税ではなく、
長期的に手元に残るお金を最大化する設計こそが重要です。

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