会社に利益が残るだけでは、社長の資産は増えません
会社の売上や利益が増えているにもかかわらず、
「社長個人の預金はあまり増えていない」
という状態になることがあります。
会社に利益が出ると、会社名義の預金は増えていきます。
しかし、そのお金はあくまでも会社の財産です。
社長が株式をすべて保有していたとしても、会社の預金を個人の生活費や投資資金として
自由に使うことはできません。
そのため、会社の成長と社長個人の資産形成は、分けて考える必要があります。
重要なのは、会社から個人へ無計画にお金を移すことではありません。
会社の経営に必要な資金を確保したうえで、税金や社会保険、将来の事業承継まで考えながら、
社長個人の資産を形成する仕組みをつくることです。
会社の資産と社長個人の資産は別のもの
会社に1億円の預金があっても、社長個人が1億円を持っていることにはなりません。
会社のお金を個人へ移すためには、役員報酬、配当、退職金など、一定の方法を通す必要があります。
どの方法を選ぶかによって、会社側と個人側の税負担は変わります。
会社に資金を残し過ぎると、社長個人の資産形成が進まないだけでなく、
自社株の評価額が高くなり、事業承継時の負担が増える可能性もあります。
一方で、個人へ資金を移し過ぎれば、会社の運転資金や投資資金が不足します。
会社と個人のどちらかに偏らせるのではなく、それぞれに必要な資産を残す設計が欠かせません。
役員報酬で毎年少しずつ個人資産を増やす
社長個人の資産形成で基本となるのは、役員報酬です。
役員報酬を受け取り、その手取りの一部を預金や投資へ回すことで、会社とは切り離された個人資産を少しずつ増やせます。
会社の業績が良くても、役員報酬を低く抑え続けていれば、会社には現金が積み上がる一方、社長個人には十分な資産が残らない可能性があります。
ただし、役員報酬を高くすれば、その分だけ所得税、住民税、社会保険料の負担も増えます。
会社の利益をすべて役員報酬で受け取るのではなく、会社に残す金額と個人へ移す金額のバランスを考える必要があります。
役員報酬は、単に毎月の生活費を受け取るためのものではありません。
社長個人の資産形成を毎年継続するための土台として設計することが重要です。
配当は会社利益を株主へ移す方法
会社に利益が蓄積している場合、配当によって株主である社長へ資金を移す方法もあります。
役員報酬とは異なり、配当は会社の経費にはなりません。
会社が法人税を負担した後の利益から支払われるため、税負担を含めて慎重に判断する必要があります。
一方で、役員報酬のように毎月固定して支給するものではないため、会社の業績や資金状況を確認しながら実施しやすい面もあります。
配当は、すべての会社で積極的に使うべき方法ではありません。
株主構成や会社の利益状況によっても適否が変わります。
役員報酬だけでなく、利益を株主へ還元する手段の一つとして検討するものです。
役員退職金で会社の蓄積を個人資産へ移す
長期間会社へ利益を残してきた場合、役員退職金は会社から社長個人へまとまった資金を移す方法になります。
適正な役員退職金であれば、会社側では損金として処理できる可能性があります。
受け取る社長個人についても、毎月の役員報酬とは異なる退職所得として計算されます。
そのため、会社と個人の双方を考えると、資金移転の方法として有効になるケースがあります。
ただし、退職金は会社に現金がなければ支払えません。
引退直前になってから金額を決めても、会社の資金繰りに余裕がなければ、予定していた資金を個人へ移せないことがあります。
将来の退職金を資産形成の一部にするのであれば、会社の預金残高、後継者へ残す資金、引退時期を早い段階から考えておく必要があります。
また、退職金だけを個人資産形成の中心にすると、会社の業績悪化や承継計画の変更に対応しにくくなります。
毎年の役員報酬による資産形成と組み合わせて考える方が安定します。
企業型確定拠出年金を活用する
会社が社長や従業員の資産形成を支援する制度として、企業型確定拠出年金があります。
会社が掛金を拠出し、加入者ごとの年金資産として運用していく仕組みです。
拠出された資金は、会社の預金として残るのではなく、加入者ごとに管理されます。
そのため、会社の利益を将来の個人資産へ計画的に移していく方法の一つになります。
一方で、自由に引き出せる資金ではありません。
原則として長期的な資産形成を目的とする制度であり、会社側には導入手続きや運営費用も発生します。
社長だけのために会社のお金を移す仕組みではなく、従業員を含む福利厚生制度として設計することが前提になります。
小規模企業共済を個人資産形成に組み込む
小規模企業共済は、小規模企業の経営者や役員が、将来に向けて資金を積み立てる制度です。
ただし、会社が直接掛金を支払う制度ではありません。
役員報酬などで個人へ移した資金から、社長自身が掛金を支払います。
そのため、会社から個人へ資金を移す仕組みと、個人側で資産を積み立てる仕組みを組み合わせる必要があります。
小規模企業共済の掛金は個人の所得控除の対象となるため、個人側の税負担を考えながら資産形成を進められる点が特徴です。
ただし、途中で解約する時期や理由によっては、受取額が掛金総額を下回る可能性があります。
短期間で使う予定の資金ではなく、長期的に積み立てられる金額を設定することが重要です。
法人保険は資産形成そのものではない
法人契約の生命保険を、社長個人の資産形成に活用できると説明されることがあります。
しかし、法人保険の解約返戻金や保険金は、原則として会社の財産です。
会社が保険料を支払っただけで、社長個人の資産が増えるわけではありません。
解約返戻金を役員退職金の原資にしたり、死亡退職金の財源にしたりすることで、
初めて個人や家族へ資金を移す仕組みになります。
法人保険は、資産形成の手段というよりも、将来の資金移転に備えるための資金準備方法として
位置付ける方が自然です。
保険料の税務処理、解約時期、返戻率、必要な保障を確認せずに契約すると、
想定どおりの資金を確保できない可能性があります。
社宅などで個人支出を抑える方法もある
資産形成では、受け取るお金を増やすだけでなく、個人が負担する支出を抑える視点も重要です。
一定の要件に基づいて社宅制度を利用すれば、社長個人が税引後の役員報酬から家賃の全額を
負担する場合と比べ、個人の支出を抑えられる可能性があります。
支出が減れば、その分を預金や投資へ回しやすくなります。
ただし、会社が私的な支出を自由に負担してよいわけではありません。
社宅制度としての要件や、社長が会社へ支払う賃料の設定など、適切な運用が必要です。
資産形成を目的として無理に会社負担を増やすのではなく、制度に沿った支出の整理によって
個人の手取りを有効に使う考え方です。
法人で投資するだけでは個人資産は増えない
会社の余剰資金で株式や投資信託、不動産などへ投資する方法もあります。
運用がうまくいけば、会社の資産は増えます。
しかし、それはあくまでも会社の資産が増えた状態です。
社長個人の預金や投資資産が増えるわけではありません。
さらに、会社の純資産が増えることで、自社株評価に影響する可能性もあります。
将来的に社長個人が使うための資金を作りたいのであれば、法人で運用するだけでなく、どの時点で個人へ移すのかまで考える必要があります。
一方、事業の将来投資や会社の財務基盤を強くする目的であれば、
法人での資産運用が適しているケースもあります。
投資目的が会社の成長なのか、社長個人の資産形成なのかを明確に分けることが大切です。
自社株だけに資産を集中させない
中小企業の社長にとって、自社株は大きな財産です。
会社が成長すれば、自社株の価値も上昇する可能性があります。
しかし、自社株は上場株式のように簡単に売却できるとは限りません。
また、会社の業績が悪化すれば、社長個人の財産価値にも大きな影響が出ます。
会社へ資産を集中させることは、自分の財産を一つの事業へ集中させることでもあります。
そのため、役員報酬や退職金などを通じて個人側にも預金や投資資産を形成し、
会社と個人で資産を分散しておくことが重要です。
会社が順調なうちに個人資産を準備しておくことで、将来の選択肢も増やしやすくなります。
会社の成長段階に合わせて資産配分を変える
創業直後や成長期には、会社へ資金を残す必要性が高くなります。
採用、広告、設備投資、運転資金など、成長のために現金が必要だからです。
一方、会社の事業が安定し、後継者や将来の引退を考える段階では、会社へ残す資金と個人へ移す資金の割合を見直す必要があります。
会社の成長期と、社長個人の資産形成を本格化させる時期は、必ずしも同じではありません。
毎年同じ役員報酬を受け取り続けるだけではなく、会社の利益、手元資金、年齢、事業承継の予定に応じて、お金の置き場所を調整することが大切です。
まとめ
会社のお金を使って社長個人の資産を形成するには、会社の預金をそのまま個人の財産と考えないことが出発点になります。
毎年の役員報酬で少しずつ個人資産を形成し、将来は役員退職金を活用する。
必要に応じて企業型確定拠出年金や小規模企業共済を組み合わせ、個人側で預金や投資資産を育てる。
法人保険は、退職金などの資金源として位置付ける。
こうした複数の方法を組み合わせることで、会社へ資産が偏り過ぎることを防ぎやすくなります。
重要なのは、会社から個人へできるだけ多くのお金を移すことではありません。
会社の成長に必要な資金を残しながら、社長個人にも会社から独立した資産を形成することです。
会社と個人の両方に資産がある状態をつくることが、将来の引退、事業承継、相続に備えるための土台になるのではないでしょうか。

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