作った後の変化に注意

遺言書を作成していても、その後の家族や財産が変われば、
当初考えていた相続とは違う結果になります。

遺言書に書かれているのは、作成した時点で考えた財産の承継方法だからです。

例えば、作成時には自社株4,000万円と預金4,000万円を
子ども2人へそれぞれ渡す予定だった場合。

その後会社が成長し、自社株が1億円になれば、遺言書の文章は同じでも、
実際に渡る財産には6,000万円の差が生じます。

不動産を売却したり、後継者が変わったりすれば、さらに前提は変わります。

遺言書は後から変更できます。

後から作成した遺言と以前の遺言の内容が違う場合、
その部分については後の内容が優先されるため、
以前の内容に縛られません。

遺言書を作った後に重要なのは、毎年書き直すことではなく、
前提となる家族や財産が変わったときに内容を照合することです。

特に次の5つは、見直しのタイミングになります。

1.家族構成が変わった

結婚、離婚、子どもの誕生、家族の死亡などによって、
遺言書を作った当時とは家族構成が変わる場合。

特に確認したいのは、財産を渡す予定だった人が先に亡くなったケースです。

例えば、社長が長男を後継者と決め、自社株をすべて長男へ渡す遺言書を作ったとします。

ところが、社長より先に長男が亡くなった場合、
会社を誰へ引き継がせるのかを改めて決めなければなりません。

長男の子どもが会社を継ぐのか、別の子どもが継ぐのか、
社員承継やM&Aへ変更するのかによって、自社株の承継先も変わります。

配偶者が亡くなった場合も同様です。

自宅を配偶者へ、その他の財産を子どもへ渡す内容にしていたのであれば、
財産配分そのものを組み直す必要があります。

家族構成が変わったときは、
遺言書に名前が書かれている人以外にも確認したいことがあります。

相続人が誰になったのか
会社を継ぐ人は変わらないのか
各人へ渡す予定だった財産のバランスが現在も適切なのか

こういったことも確認しておきましょう。

2.財産を売買した

大きな不動産の売却や購入を行ったときも、遺言書を確認したいタイミングです。

例えば、遺言書に「賃貸マンションを長女へ渡す」と書いていたとします。

その後マンションを5,000万円で売却し、売却代金が預金として残っているのであれば、
作成時とは財産の内容が変わっています。

マンションという特定の財産を長女へ残したかったのか。

5,000万円程度の財産を長女へ残したかったのか。

この2つでは、社長が本来実現したかった将来は違います。

新しい不動産を購入した場合も確認が必要です。

例えば、遺言書を作成した後に賃貸物件を取得したものの、
その財産について遺言書では何も決めていないと、
既存財産について細かく承継先を指定していても、
新しく増えた財産について家族で協議が必要になってしまいます。

高額な財産を購入、売却したときは、取引後の財産一覧と遺言書を並べて確認しましょう。

遺言書に書かれている財産を現在も所有しているか、
新しく増えた大きな財産が漏れていないか。

この2点を確認するだけでも、古くなった箇所の更新につながります。

3.後継者が変わった

社長の遺言書では、後継者の変更は特に重要です。

自社株や事業用不動産の承継先まで変更が必要だからです。

例えば、遺言書を作った時点では長男が会社を継ぐ予定で、
自社株と工場用地を長男へ渡す内容にしていたとします。

その後、長男が別の仕事を選び、長女が会社へ入り、
数年間の勤務を経て後継者に決まったとします。

この状態で遺言書を変更しなければ、実際に会社を経営する長女と、
自社株や工場用地を取得する長男が分かれてしまいます。

後継者が変わった場合は、自社株の相続人を変更すれば終わりではありません。

会社が使っている社長個人名義の土地。

会社への貸付金。

後継者以外の子どもへ渡す預金や不動産。

こうした財産も含めて再配分の検討が必要になってきます。

後継者が変更された時点で、以前の事業承継計画も前提を失っています。

後継者を変更するなら、遺言書の事業関係の財産もセットで再確認する。

ひとまとめに考えた方が漏れを防げます。

4.自社株の価値が大きく動いた

遺言書を作った後も、自社株の価値は変化します。

会社の利益、財産、借入金などが変わるためです。

父親には長男と長女がいて、長男が会社を継ぐ予定のケースで、
遺言書を作成した時点の財産が、自社株4,000万円、預金4,000万円、
自宅3,000万円だった場合。

父親は、自社株4,000万円を長男へ、預金4,000万円を長女へ、
自宅3,000万円を妻へ渡す内容にしていました。

作成時には、長男と長女へ渡す財産はそれぞれ4,000万円です。

ところが5年後、会社の業績が伸び、自社株の価値が1億円になったとします。

預金は4,000万円、自宅も3,000万円で大きく変わっていません。

遺言書をそのまま実行すると、長男は1億円、長女は4,000万円となり、
子ども同士で6,000万円の差が生じます。

もちろん、長男は会社を継ぐために自社株を取得するので、
単純に同額へ合わせる必要があるとは限りません。

それでも、父親が遺言書を作った当時は同額にする意図だったのであれば、
現在の内容はその意思と一致していません。

この段階で検討しなければならないのは、自社株を兄妹で分けることではありません。

長女へ渡す他の財産を増やすのか、生命保険などで調整するのか、
それとも現在の差を認めたうえで理由を説明するのかを決めることです。

5.会社の出口戦略が変わった

事業承継を前提に作った遺言書でも、
会社を売却したり廃業したりすれば内容を大きく変更する必要があります。

例えば、長男へ自社株1億円を渡す遺言書を作っていた社長が、
生前にM&Aで会社を売却したとします。

会社を売った後は、長男へ渡す予定だった自社株を社長が所有していない状態になります。

その代わり、会社の売却によって社長個人の預金などが大きく増えているかもしれません。

事業承継を前提に作った遺言書と、会社売却後の財産構成では、考えるべき内容が変わります。

廃業も同様です。

会社を清算すれば、自社株を後継者へ渡すという前提自体がなくなります。

会社名義だった資産を処分すれば、社長個人の財産構成は変わります。

会社の出口戦略が変わるのであれば、以前の遺言書は全面的な見直しを検討しましょう。

事業を誰へ渡すかという視点から、
社長個人の財産を家族へどう残すかという視点へ切り替える必要があります。

何年ごとに確認するべきか?

家族構成や財産に大きな変化がなければ、毎年遺言書を確認する必要まではありません。

一方、10年、20年と一度も確認しないのも避けたいところです。

1つの目安として、3年から5年程度経過したら財産一覧と遺言書を照合してもよいでしょう。

これは法律上決められた期限ではありません。

長期間の放置を避けるための確認時期として考えてください。

確認する内容は難しくありません。

次の5つを確認してみましょう。

・遺言書に書いた人へ現在も財産を渡したいか
・遺言書に書いた財産を現在も所有しているか
・新しく大きな財産が増えていないか
・自社株や不動産の価値が大きく変わっていないか
・会社の後継者や出口戦略が変わっていないか

すべて問題なければ、無理に書き直す必要はありません。

目的は更新することではなく、
現在の遺言書で希望どおりの結果になるかを確認することです。

一枚の表で確認

遺言書の見直しは、財産一覧を作ると具体的になります。

例えば、次のように整理します。

自社株 現在1億円 長男へ。

自宅 現在3,000万円 妻へ。

賃貸不動産 現在5,000万円 長女へ。

預金 現在4,000万円 長女へ。

会社への貸付金 現在2,000万円 長男へ。

これだけでも、長男へ1億2,000万円、長女へ9,000万円、妻へ3,000万円を
渡す内容になっていると把握できます。

さらに、それぞれの財産について現在も同じ人へ渡したいかを確認します。

会社への貸付金がすでに返済されているのであれば、表から消します。

新しく土地を購入していれば追加します。

こうして現在の財産と遺言書を照合すれば、
文章を読んでいるだけでは気付きにくいズレを発見できます。

書き直すときの注意点

遺言書の内容を変更するときは、
新しい内容が以前の遺言書と矛盾しないよう整理する必要があります。

以前の遺言書を残したまま新しい遺言書を作ると、どの部分が変更され、
どの部分が以前のままなのかを家族が判断しなければならない場合があります。

後の遺言と前の遺言が食い違う部分については後の内容が優先されますが、
複数の遺言書を残すのではなく、家族のためにも最新版の内容を明確にしておきましょう。

法務局で自筆の遺言書を保管している場合も、内容を変更できます。

預けている遺言書の内容を変える場合は、保管の申請を撤回して遺言書の返還を受け、
内容を変更した新しい遺言書を改めて保管する方法が案内されています。

なお、法務局への保管をやめる手続と、遺言そのものを撤回することは別です。

書き直すときは、新しい遺言書を作成するだけでなく、
古い遺言書がどのような状態で残っているかまで確認しておくと、
相続後の混乱を減らせます。

まとめ

遺言書を作った後に確認したいタイミングは、主に5つに分けられます。

・家族構成が変わったとき
・財産を大きく売買したとき
・後継者が変わったとき
・自社株の価値が大きく動いたとき
・M&Aや廃業によって会社の出口が変わったとき

この5つのどれかに当てはまれば、現在の財産一覧と遺言書を一度照合しましょう。

その結果、現在も希望どおりの分け方になっていれば、変更は不要です。

一方、受け取る人、財産そのもの、金額のバランス、会社の承継先の
いずれかが変わっているのであれば、そのまま残す理由があるのかを検討しましょう。

遺言書で重要なのは、
亡くなった時点でも、その内容が本人の希望と現在の財産に合っているかです。

作ったことに安心して長期間保管するのではなく、大きな変化が起きたときに更新する。

そうすることで遺言書を相続に役立つものとして維持することができます。