原則は後継者に集める
後継者へ自社株を移すとき、
配偶者にも一部を持たせた方がよいのではないかと考えるケースがあります。
夫婦で会社を支えているなら、二人で株を持つ方が自然に感じるかもしれません。
しかし、後継者の配偶者が会社経営に直接関わっていないのであれば、
積極的に自社株を持たせる理由はあまりありません。
自社株は単なる財産ではなく、会社の意思決定に関わる権利だからです。
株主になると、会社の利益を受け取る立場になるだけではなく、
会社の重要事項について意思表示する立場にもなります。
そのため、判断基準は夫婦だからではありません。
その人が将来も会社の経営に関わり、
株主として意思決定へ参加する必要があるかで判断します。
会社に関わらない配偶者であれば、
基本的には後継者本人へ株を集める方が、後の経営は整理しやすくなります。
配偶者に株を渡す目的を確認する
まず確認したいのは、なぜ配偶者にも株を渡そうとしているのかです。
理由が明確であれば、検討する価値があります。
例えば、後継者の配偶者も長年会社で働き、
取締役として経営判断を行っているケース。
後継者が営業を担当し、配偶者が財務や人事を担うなど、
夫婦で実質的に経営している会社もあります。
この場合、配偶者が株主になることに一定の合理性があります。
一方で、配偶者は別の仕事をしており、会社の経営には一切関わっていないケース。
それでも家族だからという理由だけで株を渡すのであれば、
将来の会社経営を複雑にする要因を増やすだけになりかねません。
株を渡す前に、配偶者を株主にする目的を一文で説明できるかを確認しましょう。
説明が「夫婦だから」「何となく半分持たせた方が公平だから」だけなら、
いったん立ち止まった方がよいでしょう。
60対40で分けた会社
具体的なケースで考えてみます。
父親が100%所有している会社を長男が引き継ぐことになりました。
長男は代表取締役となり、長男の妻は会社では働いていません。
父親は自社株を長男へ60%、長男の妻へ40%渡す案を考えています。
夫婦合わせれば100%なので、一見すると問題はなさそうです。
夫婦関係が良好で、常に意見が一致している間は、実際に大きな問題も起きにくいでしょう。
しかし、会社の株主として考えると、長男が単独で持っているのは60%です。
会社の重要な決議の中には、通常の決議より多くの賛成を必要とするものがあります。
一般的な会社で、3分の2以上の賛成が必要になる決議を考えると、
60%しか持っていない長男だけでは決められません。
妻の協力が必要です。
つまり、この株式配分では、妻が会社で働いていなくても、
会社の重要な意思決定に影響できる状態を作っています。
配偶者へ40%を渡す意味が本当にあるのかをもう一度考える必要があります。
離婚しても株は戻ってこない
配偶者へ自社株を渡す際に、特に考えておきたいのが離婚です。
夫婦が離婚したからといって、配偶者が持っている自社株が後継者へ渡るとは限りません。
株主であることと、夫婦であることは別だからです。
例えば、先ほどのケースで妻が40%の株を持った後、夫婦が離婚したとします。
妻が株をそのまま持ち続ければ、会社と直接関係のない元配偶者が40%株主として残ります。
後継者は60%を持つ代表取締役ですが、
重要な決議の内容によっては元配偶者との調整が必要になります。
離婚時に株を買い取ればよいと考えるかもしれませんが、
その時点で株価が高くなっていれば、買い戻すために大きな資金が必要です。
例えば、妻が取得した時点では40%分の株価が2,000万円だったものの、
10年後に会社が成長し、その部分の価値が6,000万円になっていたとします。
6,000万円分の株を簡単に買い戻せるとは限りません。
自社株を配偶者へ渡すときには、現在の夫婦関係ではなく、
将来その人が会社と関係のない立場になった場合まで想定する必要があります。
配偶者が先に亡くなる場合も考える
離婚だけではなく、配偶者が後継者より先に亡くなる可能性もあります。
配偶者が自社株を所有したまま亡くなれば、その株も配偶者の相続財産になります。
先ほどの会社で妻が40%を持っていたとします。
妻が亡くなり、相続人が夫と子どもだった場合、株を誰が取得するのかを決める必要があります。
夫がすべて取得できれば、再び後継者へ株を集められます。
しかし、遺産分割の結果によっては子どもへ株が移る可能性もあります。
子どもが複数いれば、さらに株主が増える展開も考えられます。
もともとは夫婦2人で持っていた株が、
次の相続によって複数人へ広がっていく可能性があるわけです。
会社経営に関係のない人へ株を渡す場合は、
その人が亡くなった後に誰へ株が移るのかまで確認しておく必要があります。
子どもへの承継が早まるとは限らない
配偶者にも株を持たせれば、将来子どもへ株を渡すのが楽になると考える方もいるでしょう。
しかし、配偶者を経由させる必要があるでしょうか。
最終的に子どもへ会社を引き継ぐ予定なら、
現在の後継者から次の後継者へどう株を渡すかを直接考えた方がよいかもしれません。
配偶者へ一度株を移せば、その人自身の財産になります。
その後の贈与や相続についても改めて考える必要があります。
株主を増やすこと自体を事業承継の手段にするのではなく、
最終的に誰が会社を経営し、誰が株を持つのかから逆算した方が
承継計画は整理しやすくなります。
経営に参加している配偶者なら話は別
一方、配偶者が実際に会社経営へ深く関わっている場合は、結論が変わります。
例えば、後継者である夫が営業と製造を担当し、
妻が取締役として財務、人事、採用を統括している会社の場合。
二人とも会社で長年働き、重要な経営判断も共同で行っているのであれば、
妻が一定の株を持つ理由があります。
ただし、この場合も単純に50%ずつ持てばよいわけではありません。
50対50にすると、二人の意見が分かれたときに、どちらも過半数を持たない状態になります。
普段は夫婦で意見が一致していても、設備投資、新規事業、後継者選びなどで
判断が分かれる可能性はあります。
そのため、夫婦で経営する会社でも、
誰が最終的な責任者なのかを決めたうえで株式割合を検討する必要があります。
経営参加している配偶者へ株を渡す場合も、
基準は夫婦間の平等ではなく、会社の意思決定です。
50対50は避けるのが無難
夫婦で会社を経営していると、株も半分ずつにする方法が公平に感じられます。
しかし、会社経営では50対50が必ずしもよいとは限りません。
例えば、新店舗へ1億円を投資するかどうかで夫婦の意見が分かれたとします。
夫は投資したい。
妻はリスクが高いので反対したい。
両者が50%ずつ持っていれば、
どちらか一方だけでは結論を出せない状態になりやすくなります。
この問題は、夫婦関係が悪いから生じるものではありません。
経営者同士であれば、事業について意見が違うのは珍しいことではないからです。
株式を半分ずつ持つのであれば、意見が分かれたときに誰が最終判断するのか、
事前に決めておく必要があります。
そこまで決められないのであれば、単純な50対50は避けた方が会社運営は安定します。
配当目的だけで株を渡す必要はない
配偶者へ会社からお金を渡したいという理由で、自社株を持たせることも考えられます。
株を持てば、会社が配当を行った際に株主としてお金を受け取れます。
しかし、配偶者へ収入を作りたいという理由だけなら、
株主にする必要が本当にあるのかを検討するべきです。
会社で実際に仕事をしているのであれば、仕事の内容に応じた給与という方法もあります。
一方、会社で働いていない配偶者へ株を渡して配当を受け取らせるのであれば、
会社の意思決定権まで同時に渡す意味があるのかを確認します。
自社株には財産としての価値だけでなく、経営権に関係する性質があります。
お金を渡す目的と、会社の株主にする目的を混同しないことが重要です。
少しだけ持たせる場合もよく考えてから
配偶者に渡す株が10%程度なら問題は小さいと考えるかもしれません。
確かに、10%であれば後継者が残り90%を持つため、多くの経営判断では後継者が主導できます。
しかし、10%でも株主であることには変わりません。
その株は配偶者自身の財産になります。
離婚しても自動的には戻らず、配偶者が亡くなれば相続の対象になります。
したがって、少数だから何も考えなくてよいということではありません。
確認したいのは、割合そのものよりも、
その10%を配偶者が持ち続ける理由が10年後にもあるかです。
理由がなければ、最初から後継者本人へ集めた方がベターです。
判断は4つの質問で整理
後継者の配偶者にも自社株を持たせるか迷ったら、4つの質問で整理しましょう。
1.その配偶者は現在会社経営に参加しているか
→経営に関わっていないのであれば、株を持たせる必要性:低
2.株主としてどのような役割を期待しているのか
→経営判断への参加なのか、将来の共同経営なのか、それとも単に財産を渡したいだけなのか
3.その配偶者が会社から離れた場合の方針
→離婚、退職、死亡などが起きても、その人やその家族が株を持つ状態で問題ないか確認
4.後継者が単独で経営判断できる株式割合を維持できるか
この4つに明確に答えられれば、配偶者へ株を渡す合理性があります。
まとめ
後継者の配偶者だからという理由だけで、自社株を持たせる必要はありません。
会社経営に関わっていない配偶者であれば、
原則として後継者本人へ株を集める方が所有関係は整理しやすくなります。
理由は、配偶者へ渡した株がその人自身の財産になるからです。
離婚しても自動的に戻るわけではなく、配偶者が亡くなればその株も相続の対象になります。
一方、配偶者が取締役として経営を担い、後継者と共同で会社を運営しているのであれば、
株を持つ合理性があります。
ただし、その場合でも50対50にすれば公平という考え方ではなく、
最終的な意思決定を誰が行うのかまで検討する必要があります。
判断するときは、配偶者という家族関係ではなく、会社との関係で考えましょう。
経営に参加しているか
株主として役割があるか
会社から離れた後も株を持たせて問題ないか
後継者の決定権を維持できるか
この4つを確認し、明確な理由がなければ、自社株は会社を継ぐ本人へ集める。
後継者の配偶者へ株を持たせるかどうかは、この考え方を基本にしてみてください。