「半分ずつ持つ」と共有は違う

自社株の相続では、最初に区別しておきたい二つの状態があります。

父親が持っていた1,000株を、遺産分割によって長男500株、長女500株と
取得したのであれば、それぞれが自分の500株を所有しています。

一方、誰が株を取得するか決まらないまま父親が亡くれた場合は、
1,000株が自動的に500株ずつへ分かれるわけではありません。

共同相続された株式は、遺産分割が終わるまで相続人が共同で持つ状態になります。

この違いは、会社経営を考えるうえで重要です。

長男が500株、長女が500株をそれぞれ所有しているなら、
自分の株について議決権を行使できます。

しかし、1,000株を2人で共有している状態では、
長男が自分の相続分は2分の1だから500株分だけ投票する、
という扱いにはなりません。

この点が、自社株の共有で問題になってきます。

議決権を自由に使えない

共有している株式について株主としての権利を行使するには、
原則として共有者の中から代表して権利を行使する1人を決め、
会社へ通知する必要があります。

つまり、相続人が2人だから、
それぞれ半分ずつ自由に議決権を使えるわけではありません。

誰が共有株全体について権利を行使するのかを話し合う必要があります。

ここで相続人同士の意見が一致していれば、大きな問題にはなりにくいでしょう。

問題は、会社を継ぐ人と会社を継がない人の意見が分かれた場合です。

例えば、後継者は新しい取締役を選びたい一方、
もう一人の相続人は反対しているとします。

株が共有のままであれば、後継者だからという理由だけで、
亡くなった社長の株を使って決議を進めることはできません。

会社を動かすための株が存在するのに、
その議決権を円滑に使えない状態になるわけです。

50対50は特に問題になる

共有株について誰が権利を行使するのかは、
共有者の持分に応じた過半数で決められるという考え方が示されています。

そのため、相続人が複数いて、一方のグループが過半数を持っていれば、
代表者を決められる場面もあります。

一方、相続人が2人で相続分が2分の1ずつなら事情が違います。

どちらも単独では過半数を持っていません。

意見が一致しなければ、代表して株主権を行使する人を
決められない状態になりやすくなります。

中小企業では、創業者が株式のほとんど、
あるいは100%を持っているケースも珍しくありません。

その株が相続によって共有になると、
会社の意思決定に使う中心的な株式が動かせなくなる可能性があります。

相続財産の中に自社株がある場合、
預金や不動産より先に株の扱いを整理した方がよい場面があるのはこのためです。

具体的なケース

父親が会社の発行済株式1,000株をすべて所有しているケースで考えます。

長男は会社の取締役として働いており、将来会社を継ぐ予定です。

長女は会社には関わっていません。

母親はすでに亡くなっており、相続人は長男と長女の2人です。

父親が遺言書を作らないまま相続が発生しました。

この時点で、父親の1,000株が長男500株、長女500株へ
自動的に分かれるわけではありません。

遺産分割が決まるまで、1,000株を長男と長女が
共同で相続している状態になります。

その後、会社で取締役の選任について株主総会の決議が必要になったとします。

長男は事業を継ぐため、新しい経営体制を早く整えたいと考えています。

一方、長女は父親の財産全体の分け方に納得しておらず、
自社株についても長男だけに渡すことには賛成していません。

この状態では、株の相続問題と会社の意思決定がつながります。

長男は後継者であっても、共有されている1,000株を
自分の判断だけで使うことはできません。

長女からすれば、株の取得者が決まっていない段階で
長男だけに会社の判断を任せることへ抵抗を感じるかもしれません。

結果として、家族間の相続協議が進まないために、
会社側の意思決定まで遅れる可能性が生まれます。

このケースは、単に兄妹仲が悪いから問題という話ではありません。

相続財産の分け方が決まらない状態を、
そのまま会社経営へ持ち込んでしまっていることが問題です。

代表者を決めても共有は終わらない

共有株について権利を行使する人を決められれば、
当面の株主総会には対応しやすくなります。

しかし、それで自社株の相続問題が解決したわけではありません。

代表して議決権を行使する人を決めても、
株の所有者がその人1人になったわけではないからです。

先ほどのケースで長男が共有株の権利を行使する人になっても、
1,000株を長男が単独で相続したことにはなりません。

長女も共有者のままです。

その後、株を誰が取得するのかについては、
改めて遺産分割を行う必要があります。

つまり、共有株の代表者を決める方法は、
会社を当面動かすための対応にはなりますが、
長期的な解決策とは別です。

会社の後継者が決まっているのであれば、
最終的に誰が株を所有するのかまで整理する必要があります。

次の相続でさらに複雑に

共有状態を長期間放置すると、問題はさらに大きくなります。

例えば、父親の株を長男と長女が共有したまま数年経過し、
その途中で長女に相続が発生したとします。

長女に夫と子どもがいれば、当初は兄妹2人の問題だったものが、
次の相続によって関係者が増えることになるわけです。

会社を経営している長男からすれば、
会社に一度も関わった経験のない親族と、
自社株について協議しなければならなくなる可能性があります。

時間が経過すれば自然に解決する問題ではありません。

むしろ、共有者が増えれば、合意形成は難しくなりやすくなります。

会社の中心となる株式であれば、共有状態を長期化させないことが重要です。

全財産の分割を待つ必要はない

相続では、不動産の評価や預金の確認などに時間がかかり、
財産全体の分け方がすぐには決まらない場合があります。

そのため、自社株についても最後まで一緒に保留してしまいがちです。

しかし、会社の意思決定に影響するのであれば、
自社株だけ先に整理する方法も検討できます。

共同相続人は、遺産の全部だけでなく、
一部について分割の協議を行うこともできます。

例えば、不動産については後日改めて協議するとして、
自社株については会社を継ぐ長男が取得すると先に合意する方法です。

もちろん、自社株だけ先に長男へ渡せば、他の相続人との財産額の調整は残ります。

そのため、株の価値を確認し、
最終的に他の財産をどのように配分するのかという話し合いは必要です。

それでも、会社経営を優先するなら、
すべての財産について結論が出るまで自社株も放置する必要はありません。

後継者が決まっているなら生前に決める

会社を継ぐ人がすでに決まっているのであれば、
自社株について相続後の話し合いだけに任せる必要はありません。

例えば、社長が自社株を後継者へ相続させる内容を遺言書で明確にしておく方法があります。

こうしておけば、相続が発生してから誰が会社の株を取得するのか
という出発点で揉める可能性を下げられます。

ただし、自社株を後継者へ集中させれば、
会社を継がない子どもとの財産額に差が生じるケースがあります。

そのため、株の承継先だけ決めれば終わりではありません。

自社株を後継者へ渡した場合、
他の相続人へ預金や不動産をどの程度残せるのかまで整理する必要があります。

つまり、生前に決めるべきなのは「株は長男へ」という一文だけではなく、
その結果として家族全体の財産配分がどうなるのかです。

最初に3つの確認

社長の相続が発生し、自社株が共有状態になった場合は、最初に3点確認しましょう。

1.社長が何株持っていたのかを株主名簿などで確認

2.その株を相続する人と、それぞれの相続分を整理

3.近いうちに株主総会で決めなければならない事項がないかを確認

例えば、役員の選任や定款の変更など、
会社運営上すぐに株主の判断が必要なのであれば、
自社株の共有問題を後回しにはできません。

反対に、当面重要な株主総会決議がなく、
相続人同士の協議も順調であれば、
必要以上に慌てる必要はありません。

大切なのは、「共有になったら危険」と一律に考えることではなく、
共有状態が現在の会社運営へどの程度影響しているかを把握することです。

まとめ

相続人同士で自社株を共有している状態と、
兄弟が株を半分ずつ取得している状態は同じではありません。

遺産分割が終わっていなければ、社長の株式は相続人が共同で持つ状態になります。

この共有株については、原則として代表して権利を行使する人を決めなければ、
株主としての権利を円滑に行使できません。

特に相続人が2人で相続分が2分の1ずつの場合、
意見が対立すると会社の意思決定にまで影響が及びます。

さらに、代表して議決権を行使する人を決めても、
株の共有そのものは解消しません。

共有状態を長期間残せば、次の相続によって関係者が増え、
問題がさらに複雑になる可能性もあります。

そのため、後継者が決まっている会社では、
自社株を他の相続財産と同じように最後まで保留するのではなく、
優先して承継先を決めるという考え方が必要です。

誰が会社を継ぐのかが決まっているなら、誰が自社株を持つのかも同時に決める。

これが、自社株の共有によって相続問題が会社経営へ持ち込まれるのを防ぐ基本です。