すべての会社が毎年必要なわけではない
中小企業の社長が持つ自社株は、
上場株式のように毎日価格が表示されるものではありません。
そのため、相続や事業承継を考え始めるまで、
自分の株がいくらなのか確認したことがないというケースもあります。
一方で、自社株は一度計算すれば数年間そのままでよいとも限りません。
会社の利益、保有する財産、借入金、株主構成などが変われば、評価額も変化します。
ただし、すべての中小企業が毎年計算する必要があるわけではありません。
毎年確認する優先度が高いのは、数年以内に株を動かす予定がある会社と、
会社の数字が大きく動きやすい会社です。
具体的には、事業承継が近い、利益が急増している、大きな不動産取引を行った、
多額の借入金を返済しているといった会社です。
反対に、株を移す予定がなく、利益や財産構成にも大きな変化がない会社なら、
毎年ではなく数年ごとの確認でも対応しやすいでしょう。
重要なのは、毎年計算すること自体ではありません。
株価が大きく動く可能性がある会社なのに、何年も確認しない状態を避けることです。
事業承継が近い会社
後継者が決まり、数年以内に株式を渡す予定がある会社は、
毎年確認する優先度が高くなります。
株を渡すタイミングによって、後継者側の負担が変わるためです。
例えば、社長が65歳で、3年後を目安に長男へ経営を引き継ぐ予定だとします。
前年に自社株を試算したところ、社長が持つ株式全体で8,000万円でした。
その後、会社が好調となり、利益を社内に積み上げた結果、翌年の試算では9,000万円、
その次の年には1億1,000万円になったとします。
3年間何も確認せず、承継直前に初めて1億1,000万円だと分かれば、
当初8,000万円を前提に作った計画は見直さなければなりません。
一方、毎年把握していれば、8,000万円から9,000万円へ上昇した段階で、
今後の承継方法を再検討できます。
このケースで毎年確認する目的は、株価を下げるためではありません。
計画の前提となる数字が変わっていないかを確認するためです。
事業承継が具体化している会社では、古い株価を使い続けないことが重要になります。
利益が急増している会社
ここ数年で利益が大きく伸びている会社も、自社株を定期的に確認した方がよいでしょう。
特に、利益を配当などで社外へ出さず、会社に残している場合です。
例えば、これまで年間500万円前後の利益だった会社が、
新規事業の成功によって2,000万円、3,000万円と利益を増やしているとします。
会社に利益が残れば、預金やその他の財産が増えていきます。
さらに、利益そのものが自社株の計算へ影響する会社もあります。
この状態で3年、5年と同じ株価を前提にしていると、
実際の評価額とのズレが大きくなりやすくなります。
売上が伸びたという情報だけでは足りません。
売上が増えても利益が残っていなければ、自社株への影響は限定的な場合もあります。
確認したいのは、利益がどれだけ増え、その利益が会社の中にどれだけ残っているかです。
業績が大きく変化した会社では、決算のたびに自社株も確認すると、
変化を把握しやすくなります。
利益の振れ幅が大きい会社
急成長している会社だけでなく、利益が年によって大きく変動する会社も対象です。
例えば、ある年は3,000万円の黒字、翌年は500万円の赤字、
その次の年は2,500万円の黒字という会社です。
こうした会社では、何年も前に計算した自社株の金額を
現在の目安として使うのは適切ではありません。
ただし、赤字になったから必ず株価が下がるわけでもありません。
赤字の原因が一時的な支出なのか、本業の悪化なのかによって会社の状態は異なります。
だからこそ、利益の変動が大きい会社では、決算後に自社株の変化を確認する意味があります。
単に今年の株価を知るだけではなく、前年からなぜ増減したのかを整理することで、
会社のどの数字が株価へ影響しているのかも把握できます。
不動産取引があった会社
会社が土地や建物を購入、売却した年も、自社株を確認したいタイミングです。
不動産は会社の財産構成を大きく変えるためです。
例えば、会社が長年所有していた土地を売却したとします。
土地がなくなる一方で、会社には売却代金が入ります。
売却によって大きな利益が出れば、その年の会社の利益も変化します。
反対に、新しく不動産を購入した場合は、現金が不動産へ変わり、
借入れを利用していれば負債も増えます。
そのため、不動産取引の前後では会社の状態が大きく変わります。
重要なのは、不動産を買ったから株価が下がる、売ったから上がると決めつけないことです。
取引後に会社の財産と借入金がどう変わったかを反映させて確認する必要があります。
特に金額の大きな不動産取引を行った会社では、
以前の株価をそのまま使わない方がよいでしょう。
借入金が大きく減った会社
借入金の返済が進んだ会社も、自社株の変化を確認する対象になります。
例えば、5年前には銀行借入が1億円あった会社が、毎年返済を進め、
現在は2,000万円まで減っているとします。
その間、会社の財産が大きく減っていなければ、
会社の財産から差し引く負債が8,000万円減ったことになります。
会社経営の面では、借入金が減ることは財務の安定につながります。
一方、自社株については、会社の価値が高くなる要因にもなります。
このため、借入金を順調に返済している会社ほど、
昔計算した株価とのズレが広がる可能性があります。
ここで必要なのは、借入金が減ったからと対策をすることではありません。
財務改善によって、自社株がどの程度変化したのかを把握することです。
特に数年以内に相続や事業承継を予定しているなら、
借入金の返済状況と自社株を別々に管理しない方がよいでしょう。
大きな退職金を予定している会社
社長や役員への退職金を数年以内に予定している場合も、
自社株を毎年確認すると計画を立てやすくなります。
例えば、2年後に社長が退任し、会社から退職金を支払う予定だとします。
退職金を支払えば、会社から現金が出ていきます。
その年の利益にも影響するため、自社株の評価額が変化する要因になります。
しかし、退職金を支払う前の株価だけの確認では十分ではありません。
退職前の株価、退職金を支払った後の会社の資金、
後継者へ株を渡す予定時期まで合わせて整理する必要があります。
例えば、現在の自社株が1億円で、2年後の退職と同時期に株式承継を予定しているなら、
今年と来年の株価を確認しておけば、計画から大きく外れていないか判断できます。
退職金を自社株対策だけで決めるのではなく、
退職と株式承継の二つの予定を同じ時間軸で管理することが重要です。
株を少しずつ移している会社
後継者へ毎年少しずつ株を渡している会社も、
前年の株価をそのまま使わない方がよいでしょう。
自社株の価値は固定されていないためです。
例えば、前年は1株5万円だった株式が、今年も必ず5万円とは限りません。
会社の利益や財産が変われば、今年の評価額も変化します。
前年と同じ株数を渡しても、評価額が上がっていれば後継者へ移る財産額は増えます。
そのため、毎年株を移す計画を立てているなら、株数を先に固定するのではなく、
その年の株価を確認したうえで移す株数を検討する方が合理的です。
特に、複数年にわたって株式承継を進める会社では、
最初に作った計画を最後までそのまま使わず、途中で見直すことが重要になります。
株主構成が変わった会社
自社株の価値を考える際は、会社の数字だけではなく、誰が株を持っているかも重要です。
例えば、これまで社長が100%所有していた会社で、後継者へ一部の株を渡したとします。
その後、さらに株を移す予定があるなら、
現在の株主構成を反映させて確認する必要があります。
相続によって株式が複数の家族へ分かれた場合も同じです。
会社の利益や財産に変化がなくても、株式の持ち方が変われば、
その後の承継計画そのものを見直す必要が生じます。
株主構成が変わった年は、自社株の金額だけではなく、
誰が何株持っているのかまで整理しておくと、その後の判断がしやすくなります。
毎年確認する会社を判断する
ここまでの内容をまとめると、毎年確認する優先度が高い会社には共通点があります。
まず、3年から5年程度の間に相続や事業承継を具体的に考えている会社です。
この期間は、株価が変化した場合に計画を修正する時間を確保するという意味で、
一つの目安になります。
次に、利益が急増している、あるいは利益の変動が大きい会社です。
さらに、大きな不動産取引、借入金の大幅な返済、社長の退職、
株主構成の変更などがあった会社も対象になります。
反対に、事業承継の予定が当面なく、業績も財産構成も安定しており、
大きな取引もない会社なら、毎年計算する必要性は下がります。
この場合でも、何年も放置するのではなく、
大きな変化があった段階で改めて確認すればよいでしょう。
株価だけの記録では足りない
毎年確認するのであれば、その年の株価だけを並べるのでは十分ではありません。
前年から変化した理由も一緒に残しておくと、翌年以降の判断材料になります。
例えば、
前年8,000万円、今年9,200万円。
という数字だけでは、なぜ1,200万円増えたのか分かりません。
一方、利益が増えた、不動産を売却した、借入金を3,000万円返済したという
背景まで整理しておけば、翌年の株価も予測しやすくなります。
そのため、自社株を毎年確認する会社では、
金額と変動理由をセットで記録するのがおすすめです。
これにより、単なる年次作業ではなく、事業承継の判断に使える資料になります。
まとめ
自社株の価値は、すべての会社が毎年確認しなければならないものではありません。
毎年確認する意味が大きいのは、次のような会社です。
1.数年以内に事業承継を予定
2.利益が大きく伸びている
3.利益の変動が激しい
4.大きな不動産取引を行った
5.借入金を大きく減らした
6.社長の退職を予定している
7.株を少しずつ後継者へ移している
反対に、会社の状態が安定し、株式を動かす予定もないのであれば、
毎年計算する必要性はそれほど高くありません。
判断基準はシンプルです。
会社の数字が大きく変わったか、近いうちに株を動かす予定があるか。
どちらかに当てはまるなら、その年の決算後に自社株を確認する。
そして、株価だけでなく、前年から変化した理由まで整理する。
この習慣があれば、相続や事業承継の直前に想定外の株価に気付くリスクを減らせます。