最初の1週間では相続のことは後回し
社長に突然万一のことがあった場合、家族には相続の手続があります。
一方、会社では翌日からも仕入れ、取引先への対応など活動は続きます。
この段階で最優先にするのは、自社株を誰が相続するかを決めることではありません。
まず、次の3つを確認しましょう。
誰が会社を代表して判断するのか。
誰が会社のお金を動かせるのか。
直近の支払いを予定どおり行えるのか。
最初の1週間の目標は、相続手続に着手することではなく、
会社の経営を止めない状態を作ることです。
まず「誰が会社を代表できるか」を調べる
最優先で把握したいのが、現在の役員構成です。
社長以外にも代表取締役がいるのであれば、その人が会社を代表できる場合があります。
一方、社長だけが代表取締役だった会社では、新しい代表者を決める必要が出てきます。
このとき、「専務がいるから今日から社長の代わり」というわけにはいきません。
誰が新しい代表取締役を決めるのかは、取締役会を設置しているか、
定款がどうなっているかなどによって異なります。
そのため、まず登記事項証明書、定款、現在の役員構成をそろえましょう。
会社を代表する人が決まらなければ、契約や銀行手続などにも影響します。
後継者を最終的に誰にするかより先に、今この会社を誰が代表できるのかを明確にすることが必要です。
印鑑と銀行の権限を押さえる
代表者の問題と同時に対応したいのが、会社のお金を動かすための権限です。
・会社の実印や銀行印の所在
・通帳を管理している人
・ネットバンクを使える人
・振込の承認者
・銀行のワンタイムパスワードや認証端末
こうした情報を把握しましょう。
会社の預金は社長個人の相続財産ではありません。
ただし、社長だけが振込を承認できる設定だった場合には、
会社に預金があっても実際の支払いが滞ってしまう可能性があります。
この段階で、社長が使用していたIDや認証情報をそのまま別の人が使い続けるのではなく、
銀行へ事情を伝え、今後必要になる手続を確認しましょう。
次の支払日までに必要なお金を把握
会社を代表する人と銀行の操作方法を把握したら、次に直近の支払いをリストにしましょう。
優先したいのは、数か月先の経営計画ではなく、まず今後1週間から2週間程度の資金繰りです。
給与、仕入代金、家賃、借入金の返済、税金や社会保険料など、
それぞれについて、支払日と必要額を把握します。
この作業によって、
「会社には預金があるが振込できない」
「支払いはできるが請求書の場所が分からない」
「社長しか承認していなかった支払いがある」
といった問題を早い段階で見つけられます。
最初の1週間では、長期的な資金計画より、次の支払いを予定どおり実行できるかが大事です。
社長しか知らない情報をリストアップ
中小企業では、社長本人がさまざまな情報を持っていることがほとんどです。
進行中の案件、銀行との融資相談、設備投資の予定、契約更新の時期、
顧問税理士や社会保険労務士などの連絡先など
こうした情報が社内で共有されていなければ、会社側で集めなければなりません。
メール、予定表、社内資料、契約書などから、進行中の案件を洗い出しましょう。
必要な情報がどこにあるのかを把握し、適切な方法で引き継ぐことが重要です。
社員へ説明する担当者を決める
社長に万一のことがあれば、社員も会社が今後どうなるのか不安になります。
このとき避けたいのが、役員や幹部がそれぞれ違う説明をすることです。
社員へ最初に伝える内容は多くなくて構いません。
・会社の営業は継続する
・当面、誰が業務上の判断を行うのか
・社員からの相談先
・今後の体制など
まず、この程度の事項を早めに伝えましょう。
ただ、後継者や株式の承継について、まだ決まっていないことまで急いで発表する必要はありません。
決まっていることと、まだ決まっていないことを分けて伝えなければ余計な混乱の原因になります。
自社株の保有状況を確認
最初の1週間で、自社株を誰が最終的に取得するか決める必要はありません。
一方で、社長が会社の株を何株、何%持っていたのかは早めの確認が吉です。
まず、現在の株主構成を確認しましょう。
社長がすべての株を持っていたのか、それとも家族や他の役員にも株主がいるのか。
過去に後継者へ一部の株を移しているのか。
こうした内容を確認し、社長が保有していた株式数と持株割合を把握します。
会社の株主名簿などを使うと確認ができますので参考にしてみてください。
株主構成を把握しておく必要があるのは、社長が保有していた割合によって、
その後に確認すべき手続や会社の意思決定への影響が変わるためです。
例えば、社長が100%の株を持っていた会社と、
後継者がすでに過半数の株を持っていた会社では、
社長に万一のことがあった後の状況が変わってきます。
繰り返しになりますが、この段階で重要なのは、株の分け方を急いで決めることではありません。
まず「誰が何株持っていた会社なのか」を正確に把握することです。
そのうえで、社長が保有していた株について、今後の相続手続を進めていきます。
借入金と個人保証も把握
銀行借入がある会社では、借入残高だけでなく、誰が保証人になっているのかも把握しましょう。
社長個人が会社の借入れを保証していた場合、その問題は会社の代表者交代だけにはとどまりません。
銀行へ状況を伝え、今後の借入れや保証の方針について相談しましょう。
ここで急いで後継者へ保証を付け替える必要があるとは限りません。
まず既存の借入条件を把握し、銀行から必要な手続を聞きましょう。
会社所有の不動産に担保が付いているのか、社長個人の不動産も関係しているのかも
分けて把握しておくと、その後の対応がよりスムーズになります。
登記や届出は最初の1週間で準備を始める
新しい代表取締役が決まったら、会社の登記も変更します。
株式会社では、役員などの登記事項に変更が生じた場合、
原則として変更から2週間以内に変更登記が必要です。
代表者が変われば、税務署への異動届など、その後に必要になる手続もあります。
誰が新しい代表者になるのかを決め、司法書士、税理士、社会保険労務士などへ連絡し、
必要な手続と期限を一覧にしましょう。
期限のある手続を見落とさない状態にしておくことが重要です。
最初の1週間は三段階で考える
突然のことで何から手を付ければよいか分からない場合は、
三段階に分けるとよいでしょう。
最初の1日
1.誰が会社を代表できるのか
2.会社の印鑑、通帳、銀行の認証手段の所在
3.直近で止めてはいけない支払い
まず、この3つを把握します。
2日目から3日目
1.銀行、顧問税理士、司法書士などへの連絡
2.進行中の重要案件、主要取引先、借入状況、自社株の保有状況の把握
3.社員へ当面の指揮命令系統の説明
1週間以内
1.新しい代表者を決めるために必要な手続
2.直近の資金繰りの確定
3.重要な取引先への引継ぎ
登記や各種届出については、誰がいつまでに行うかを決めておきましょう。
この段階まで進めば、会社の日常業務を続けながら、
その後の相続や事業承継について検討できる状態になります。
最初の1週間で決めなくてよいこと
突然の相続が発生すると、「すぐに後継者を正式決定しなければ」
「株を誰が相続するか決めなければ」と慌ててしまうかもしれません。
しかし、急いで結論を出さなくてもよいものもあります。
・自社株を最終的に誰が取得するか
・会社を長期的に誰が経営するか
・他の相続財産と自社株をどう分けるか
・会社をそのまま続けるのか、将来売却・廃業するのか
こうした問題は、最初の数日で結論を出すより、
会社と家族の状況を把握してから検討した方がよいでしょう。
一方、
・誰が当面会社を代表するのか
・給与や仕入代金を支払えるのか
・誰が取引先へ対応するのか
といった問題は待ってくれません。
「今週決めなければ会社が止まること」と「時間をかけて決められること」を選別する。
これが最初の1週間で最も重要な判断です。
まとめ
社長に万一のことがあった直後に、会社が目指すべきなのは相続問題の解決ではありません。
最初に目指すのは、社長がいなくても、会社の判断、支払い、取引を続けられる状態です。
誰が会社を代表するのかが決まり、必要な支払いができ、社員や取引先の窓口も決まっていれば、
会社は止まりません。
その状態を作った後で、自社株の承継や今後の経営体制を検討しましょう。
最初の1週間で、すべてを決めようとしないことも重要です。
会社を止めないために今すぐ必要なことから手を付け、その後に相続と事業承継を考える。
この順番を守るだけでも、突然の事態で会社全体が混乱するリスクをかなり抑えられます。