株を残す目的から逆算

事業承継では、後継者へ一度にすべての自社株を渡さず、先代社長が一部を残すケースがあります。

承継直後は後継者の経営経験が十分ではないため、先代社長も会社への関与を続けたいのであれば、
一定の株を持ち続ける考え方には合理性があります。

ただし、何となく不安だから株を残すという決め方は避けたいところです。

株を持っている以上、先代社長は単なる相談役ではなく、
会社の重要な意思決定に影響できる株主でもあります。

そのため、最初に決めるべきは、次の3つです。

なぜ株を残すのか、いつまで残すのか、最終的に誰へ渡すのか

この3つが決まったら、必要な保有割合の検討に進みます。

100%残したまま社長だけ交代するケース

代表取締役を後継者へ交代しても、先代社長が自社株を100%持ち続けることは可能です。

この場合、後継者は日々の会社経営を担当しますが、会社の所有者は引き続き先代社長です。

承継準備の初期段階として、一時的にこの状態を作るのであれば問題はありません。

例えば、長男が社長へ就任したものの、
最初の1年間は経営者としての適性を確認したいというケースです。

しかし、何年経っても100%を先代社長が持ったままだと、
後継者からすると会社を引き継いだ実感が持てないかもしれません。

重要な場面で先代社長の意向を無視できない状態が続いてしまうことも
健全とは言えません。

さらに、株を移さないまま先代社長に相続が発生すれば、
承継の途中だった自社株が相続財産になります。

後継者へ集中させる予定だった株が、
家族間の相続問題に変わる可能性も出てきます。

そのため、100%保有を続ける場合は、
いつまでこの状態を続けるのかを先に決めておく必要があります。

過半数を残すと主導権も残ってしまう

先代社長が株の過半数を持っている場合、
会社の重要な意思決定に対して強い影響力を維持できます。

例えば、先代社長60%、後継者40%という状態。

形式上は後継者が社長でも、株主としては先代社長の方が大きな力を持っています。

この状態にはメリットもあります。

承継直後に後継者が会社の方向を急激に変えようとした場合、
先代社長が一定の歯止めをかけられます。

一方、後継者からすれば、自分が経営責任を負っているのに、
最終的な所有権は先代に残っている状態です。

経営方針について意見が一致している間は問題になりませんが、
設備投資、新規事業、人事などで考えが分かれれば、
株主としての力関係が表面化することになります。

上記の100%保有のケースと同様にはなりますが、
先代社長が過半数の株を持ち続けると、後継者が社長になっても、
株主としては先代社長の意向を無視しにくい状態が続きます。

そのため、承継直後の一定期間だけ先代社長が過半数を持つのであれば、
いつまでに後継者へ株を移すのかをあらかじめ決めておくことが重要です。

例えば、社長交代から1年間は先代社長60%、後継者40%とし、
その後は後継者へ追加で株を移して過半数を持たせる。

過半数を残すこと自体は問題ではありません。
いつまで先代社長が主導権を持ち続けるのかを
決めないでいることが問題になってきます。

少数株を残す意味はあるのか

では、後継者へ大部分を渡し、先代社長が少数の株だけ持つケースはどうでしょうか。

例えば、後継者80%、先代社長20%です。

この場合、後継者が株主としても中心になるため、所有と経営の一致が取れます。

一方、先代社長も株主として会社との関係を維持できます。

承継直後に完全に会社との関係を切ることへ抵抗がある場合には、
このパターンが選択肢になってきます。

ただし、20%を残す意味は明確にしておきましょう。

会社から配当を受けたいのか、株主として会社の状況を把握しておきたいのか、
将来別の子どもへ渡す予定なのか。

それとも、単に手放すのが不安なのか。

目的によって、その20%を今後どうするのかの方針が決まってきます。

3分の1前後を残すなら慎重に検討

先代社長が3分の1前後の株を残すケースは、さらに注意が必要です。

会社の重要事項を決定する際に、通常よりも高い賛成割合を
必要とするものがあるためです。

そのため、後継者が株の過半数を持っていても、
先代社長の持分によっては重要な決議で先代側の意向を
無視できないケースが発生する可能性があります。

これは必ずしも悪いことではありません。

承継直後の数年間だけ、会社の根幹に関わる判断について
先代社長にも一定の発言力を残したいのであれば、
株式の保有が意図に沿ったものとして実現できます。

一方、後継者へ経営判断を完全に移したつもりなのに、
株式割合だけ旧体制のまま残せば、齟齬が生じてしまいます。

経営を任せるのであれば、
株主としてどこまで影響力を残すのかも同時に決めましょう。

段階的に移すケーススタディ

父親が100%株主で、長女へ会社を引き継ぐケース。

父親が3年後に完全に退任する場合。

このケース、最初から100%を長女へ渡す方法もあります。

しかし、もう数年間は関与したい場合。

その場合には、最初から3年間かけて株を段階的に長女へ移す方法が候補に挙がります。

承継初年度は長女へ60%を移し、父親が40%を保有。

1年後、長女が経営を安定して行えていることを確認し、さらに20%を移します。

3年後に父親が役員を退任する際、残り20%も長女へ移し、最終的に長女100%とします。

この設計で重要なのは、40%、20%という数字そのものではなく、
株を段階的に減らす時期と条件を最初から決めていることにあります。

これなら父親が不安だから株を残し続ける状態を避けられ、
長女もいつ自分へ所有権が移るのか把握できます。

「成長したら渡す」では曖昧すぎる

先代社長が株を残す場合によくあるのが、
後継者が十分に成長したら残りを渡すという考え方です。

しかし、これでは移行時期が明確ではなく、先代社長の感覚だけで期限が延び続けます。

売上目標を達成したら渡すのか、銀行との交渉を一人でできるようになったら渡すのか、
社長就任から3年経ったら渡すのかなど、何をもって成長したと判断するのかを
決めておく必要があります。

株を残すのであれば、時間と条件を組み合わせるのがよいでしょう。

例えば、社長交代から2年後を基本時期とし、
その時点で資金繰り、幹部人事、主要取引先との関係を
後継者が自ら管理できていれば残りの株を移す、といった進め方です。

相続まで保有するリスク

先代社長が株を持ち続ける場合、相続のことは必ず考えておきたいところです。

本人は数年後に後継者へ渡すつもりでも、
それより前に相続が発生する可能性もあります。

先代社長が一部を保有したまま相続が発生すると何が問題になるのか。

保有したままの株式は先代社長の相続財産です。

承継先を決めていなければ、後継者以外の家族も含めて
誰が取得するのかを話し合う必要が出てきます。

本来は後継者へ100%集める予定だったのに、
保有したままの株式は相続の問題に波及してしまうんです。

先代社長が株を残すのであれば、生前の移転計画だけでなく、
途中で相続が発生した場合の承継先も決めておきましょう。

配当目的だけで残す必要があるか

先代社長が株を残す理由として、退任後も会社から収入を得たいという考え方があります。

たしかに、株を持っていることで、会社が行った配当を株主として受け取れます。

ただし、生活費を確保する目的だけで株を残すのはおすすめしません。

退職金、個人で保有する不動産からの賃料、預金やその他の資産など、
退職後の生活を支える方法はほかにもあります。

こうした方法で生活資金を十分に確保できるのであれば、
収入目的だけで自社株を持ち続ける必要性は下がります。

特に、後継者へ経営権を完全に移したいのであれば、
生活費の問題と株式の問題を分けて検討するべきでしょう。

保有し続ける株の承継先も決めておく

先代社長が10%や20%だけ残した場合でも、
その株を最後に誰へ渡すのかは決めなければなりません。

少数だからといって無視できません。

そのまま持ち続ければ、最終的には相続財産になります。

一部でも別の相続人へ渡れば、会社に想定外の株主が加わる
ことも想定されます。

後継者へ経営を一本化する方針なら、先代が持つ株についても
最終的な行き先を決めておかなければなりません。

残すことよりも、どう手放すかまで出口を決めることで初めて承継計画が完成します。

全部渡す方がよい会社

先代社長が株を残さず、後継者へまとめて渡した方がよいケースはどんな場合でしょう。

後継者がすでに十分な経営経験を持っている。

社長交代後は先代が経営へ関与しない。

取引先や銀行との引継ぎも終わっている。

兄弟など他の家族を株主にする予定もない。

こうした条件がそろっているのであれば、少数株を先代が持ち続けることの意味は弱いでしょう。

株を残す理由がないのであれば、所有と経営を後継者へまとめる方が
会社の意思決定はシンプルになります。

一部残した方がよい会社

一方、承継に数年かける会社では、一部を残した方がよい可能性があります。

後継者が社長になったばかり。

大型投資や銀行交渉など、まだ先代の経験が必要。

主要取引先の引継ぎが終わっていない。

後継者自身も段階的な移行を希望している。

こういった場合には、株を一部残しながら経営と所有を段階的に移す方法が現実的です。

ただし、株を残す期間を明確に決めておくことを前提に進めましょう。

判断は4つの質問で整理

先代社長がどこまで自社株を残すか迷ったら、4つの質問で整理していきましょう。

1.後継者は現在、自分で会社の重要な判断を行える状態か。

2.先代社長が株主として残る具体的な目的があるか。

3.その目的が何年続くのか。

4.その期間中に先代社長へ相続が発生しても、株が予定どおり後継者へ集ま手筈が整っているか。

この4つに答えれば、100%残す、一部残す、すべて渡すといった選択をしやすくなります。

割合から決めるのではなく、役割から割合を決めることを意識しましょう。

まとめ

先代社長が自社株を残す割合に、一律の正解はありません。

判断基準になるのは、後継者の経営経験と、先代社長が今後会社で担う役割です。

承継直後で、先代社長の関与がまだ必要なら、
一部の株を残しながら段階的に移す方法が有力です。

一方、後継者がすでに経営を任せられる状態で、
先代社長も経営から離れるのであれば、
少数株を残し続ける必要性は低くなります。

特に避けたいのは、理由も期限もないまま株を持ち続けることです。

その状態では、経営を任された後継者と、
株主として影響力を持つ先代社長の間で権限が曖昧になります。

さらに、株を残したまま相続が発生すれば、承継途中の株が家族間の相続問題へ変わります。

何%残すかではなく、何のために残し、いつまでに後継者へ移すのか。

この3つを意識すれば、先代社長の安心と後継者の経営権を両立させやすくなるはずです。