社長交代だけでは引き継げない

事業承継では、自社株や役員の変更だけでなく、銀行との関係も後継者へ移していく必要があります。

長年付き合ってきた銀行であれば、先代社長との間には、
決算書だけでは分からない会社の事情や資金調達の考え方まで含めた関係ができています。

しかし、社長が交代したからといって、その関係まで自動的に後継者へ移るわけではありません。

後継者自身が会社の数字や今後の方針を説明し、
必要なときに融資を相談できる状態を作る必要があります。

銀行との引継ぎのゴールは、後継者が一人でも銀行と話せる状態になることです。

社長交代前から銀行との接点を作る

後継者が決まっているのであれば、社長交代の前から銀行へ紹介しておきましょう。

最初は先代社長と一緒に訪問し、後継者として会社でどのような仕事をしているのか、
いつごろ社長を交代する予定なのかを話しておくと円滑に引継ぎが進められます。

その後は、決算説明や融資相談にも参加させるようにしましょう。

この段階で大切なのは、後継者を同席させるだけで終わらせないことです。

最初は先代社長が説明していても、
徐々に後継者が会社の数字や今後の計画を説明する機会を与えてみてもよいです。

例えば、売上や利益が変わった理由、今後の設備投資、借入金の返済方針などを
後継者自身が説明するといった具合です。

銀行との面談を繰り返すうちに、先代社長は補足役へ回り、
最終的には後継者だけで対応できるようになるのが理想的です。

社長交代後も先代社長が毎回説明の中心にいると、銀行との関係も先代社長のまま残ってしまいます。

借入状況と銀行ごとの役割を整理する

後継者は、現在どこからいくら借りているのかを把握しておく必要があります。

ここで確認したいのは、借入残高だけではなく、
毎月の返済額、返済終了の時期、金利、
借入の目的、担保や保証の状況など多岐にわたります。

ただ、こうした内容まで一覧にしておけば、承継後の資金繰りを把握しやすくなります。

複数の銀行と取引しているのであれば、
次のようにそれぞれの銀行との付き合い方も確認しておきましょう。

・日常的な入出金に使っている銀行
・借入れの中心になっている銀行
・設備投資の際に相談している銀行

先代社長の中では当然になっている使い分けでも、
後継者には伝わっていない可能性もあります。

銀行名だけではなく、その銀行と何のために付き合っているのかまで引き継ぎましょう。

事業承継前後の資金需要も銀行へ伝える

事業承継の前後に設備投資や出店などを予定しているのであれば、
早めに銀行へ伝えておきましょう。

社長交代直後に突然大きな融資を申し込むより、承継前から今後の計画を共有しておいた方が、
銀行も会社の将来像を把握できます。

その際は、先代社長だけで説明するのではなく、後継者も一緒に説明するように、
できれば後継者が中心となって説明できると安心です。

・後継者が今後どのような会社にしたいのか
・どのような投資を考えているのか
・借入れをどの程度行う方針なのか

こうした内容を後継者自身が話せれば、銀行との関係も新しい経営者へ移りやすくなります。

先代社長と後継者で資金調達に対する考え方が違っても、
その違い自体が問題なのではありません。

後継者が自分の方針とその理由を説明できることが重要です。

担当者だけとの関係性で終わらせない

銀行担当者は異動します。

そのため、先代社長と特定の担当者との関係だけに頼っていると、
担当者が替わったときに関係性も弱くなります。

重要な決算報告や融資相談では、
必要に応じて支店長や融資担当者にも後継者を認識してもらいましょう。

銀行の中で、「この会社の次の経営者はこの人だ」と認識されていれば、
担当者が替わっても引継ぎやすくなります。

銀行との関係は、一人の担当者との個人的な付き合いではなく、
金融機関との関係として作っておく方が安定します。

社長交代時は口座の権限も確認する

社長交代では、銀行との面談だけでなく、実際の手続も必要になります。

・代表者の変更
・届出印の変更
・口座の利用権限
・ネットバンクの利用者
・振込の承認権限

こうした設定が先代社長のまま残っていると、
社長交代後の支払いや資金移動で支障が出てしまいます。

特に確認したいのが、ネットバンクです。

先代社長だけが振込を承認できる状態になっていないかを確認し、
後継者が必要な手続を行える状態に変更しておきましょう。

銀行との関係だけではなく、実際に会社のお金を動かせる権限まで移して初めて引継ぎは完了します。

引継ぎは三段階で進める

銀行との引継ぎは、一度の挨拶で終わらせることはできません。

1.先代社長と一緒に銀行へ行き、後継者として紹介

2.決算説明や融資相談へ参加し、後継者が説明する範囲を増やす

3.後継者だけで銀行との面談や資金調達の相談を行う

この三段階で進めれば、社長交代の日に突然すべてを引き継ぐことになり、
慌てることもありません。

先代社長が同席する期間を決め、少しずつ後継者へ対応を移していきましょう。

最初に確認すべきこと

銀行との引継ぎを始めるなら、まず次の事項の整理から始めてみるのが良いです。

・現在の取引銀行
・銀行ごとの役割
・借入残高と今後の返済予定
・今後予定している設備投資や資金需要
・後継者は現在どこまで銀行対応ができるのか

ここまで整理すれば、何を引き継ぐ必要があるのかが明確になってきます。

まとめ

先代社長が長年銀行と築いてきた信頼関係は、
社長が交代しただけで後継者にもそのまま引き継がれるわけではありません。

後継者自身が会社の数字や今後の方針を説明し、
銀行から「この人が今後の経営を担う」と認識してもらう必要があります。

そのため、銀行との引継ぎが終わったかどうかは、社長交代の手続や挨拶が済んだかではなく、
後継者が自分で会社の資金状況を説明し、必要な資金について銀行と相談できるかが鍵となります。

先代社長がいるうちに決算説明や融資相談を経験し、少しずつ後継者が対応の中心になる。

そうすることで、社長交代後も銀行とのやり取りを後継者自身が進める不安を減らすことができます。